オバマ氏は「米衰退が世界の利益」と認識
オバマ外交と次期米大統領の課題(上)
米ペパーダイン大学教授 R・カウフマン氏に聞く
オバマ米大統領の下で、米国の指導力・影響力は大幅に低下し、世界は不安定化した。オバマ外交の背後にあるドクトリンと次期米大統領が直面する課題について、ロバート・カウフマン米ペパーダイン大学教授に聞いた。(聞き手=ワシントン・早川俊行)
オバマ氏の外交政策には一貫性や明確なドクトリンがないとの指摘が多いが。

ロバート・G・カウフマン 米コロンビア大で修士・博士号、ジョージタウン大法科大学院で法学博士号を取得。専門は米外交政策、安全保障、国際関係。4月に新著『危険なドクトリン―オバマの大戦略は米国をいかに弱体化させたか』を出版。
オバマ氏は世界における米国の役割を一変させたいという明確なドクトリンを持っている。多くの歴代大統領よりもはるかに一貫性がある。オバマ氏はレーガン元大統領と同様、信念の政治家と言えるが、そのドクトリンは多くの点でレーガン氏と正反対だ。
オバマ・ドクトリンは基本的に、米国のパワーを大幅に縮小させることを求めている。その前提として、オバマ氏は敵ではなく米国自身が国際秩序の脅威だと信じている。
米国が歴史の間違った側にいるなら、米国の同盟国も信頼できない国々ということになる。オバマ氏が民主的な同盟国と距離を置いてきたのはそのためだ。
例えば、東欧では多くの政治資本を費やしてミサイル防衛計画を受け入れた同盟国よりも、ロシア・プーチン氏との「リセット」を優先した。中東ではイランへの関与のためにイスラエルと距離を置いた。アジアでは価値観や戦略的利益を共有する日本やインドよりも、中国の機嫌を取ることを優先している。
オバマ氏は米国を弱体化させることが世界にとって好ましい、そう信じているのか。
そうだ。しかも、米国の衰退を必然と信じている。オバマ氏の学術的権威であるファリード・ザカリア氏(国際問題評論家)によると、世界は多極システムに向かうのが必然であり、しかもそれは好ましいことだという。だが、私はヨーゼフ・ヨッフェ氏(独週刊紙ツァイト発行人)やチャールズ・クラウトハマー氏(米コラムニスト)らと共に、米国の衰退は必然ではなく選択、つまり、米国の行動次第だと信じる者の一人だ。
オバマ氏の急激な国防予算削減は、米国の衰退を自己達成的予言にしている。これは極めて危険かつ不要な選択であり、米国の軍事力を維持する負担よりもはるかに大きなコストを強いるものだ。
オバマ氏は中国をどう見ているのか。
オバマ氏にとって、地球温暖化こそ東アジア最大の脅威であり、中国を温暖化対策のパートナーと捉えている。だが、中国の軍備増強や強まる独裁主義的、拡張主義的傾向を目の当たりにする日本にとっては、中国こそ脅威だ。日本だけではない。フィリピンやベトナムも極めて明確に中国を脅威と見ている。中国のことを唯一理解していないのが米国だ。
オバマ氏にとっては、中国ではなく米国こそが問題なのだ。これは根本的に間違った見方だが、根底にある(米国自身が脅威だという)前提を考えれば、オバマ氏の戦略は論理的に筋が通っている。問題は論理ではなく、論理の根底にある誤った前提だ。
ジュリアーニ元ニューヨーク市長は「オバマ氏は米国を愛していない」と指摘したが、オバマ・ドクトリンの根底には反米主義があるのか。
オバマ氏は愛国者だ。だが、彼が考える偉大な愛国主義とは、米国をもっと慎ましい国にし、多国間機構に埋もれて米国のパワーを抑制することだ。これがオバマ氏にとって真の国益なのだ。米国が超大国でいることは持続不可能であるだけでなく、米国に有害な結果をもたらす、そう信じている。つまり、問題はオバマ氏の悪意ではなく、お粗末な判断の方にある。