フィリピンのMILF和平 現政権下での実現、絶望的に
下院で「基本法案」可決できず
フィリピン南部を拠点とする国内最大のイスラム反政府勢力、モロ・イスラム解放戦線(MILF)と政府が進めていた和平プロセスで、下院議会で審議されていたバンサモロ基本法案の可決が、次期政権に持ち越されることが濃厚となった。既に議会は5月の選挙に向けて休会入りしており、MILFが和平の条件として掲げていたイスラム自治区の樹立は、アキノ政権下では無理との見方が強まっている。
(マニラ・福島純一)
和平反対派の活動も活発化
バンサモロ基本法案の審議がこれだけ遅れたのは、昨年1月にMILFと警察特殊部隊が戦闘となり、44人の警官が死亡した事件が大きい。MILF側はテロリストを追っている警察特殊部隊が、何の調整もなく支配領域に侵入したことで戦闘が勃発したと攻撃を正当化した。しかし、負傷して瀕死の状態の警官を至近距離から銃殺する動画がネット上に流出するなどで、国会議員の間にMILFへの強い不信感が生まれ、イスラム自治区の強い自治権を認めるバンサモロ基本法案の内容の見直しを求める意見が相次いだ。
これにより、それまで順調に進んでいた和平プロセスは、最終局面で急減速を強いられ、アキノ大統領の強い要請にもかかわらず、結果的に国会での審議の遅れを取り戻すことができなかった。
この状況に対しMILF和平交渉団のイクバル団長は、和平プロセスの遅延で「MILF内部で不満が高まっている」と政府に警告する一方、「平和と正義、和解のために協力して障害を乗り越えるべきだ」と述べ、次期政権でも和平プロセスが白紙に戻ることなく、継続されることを強く望んだ。
大統領府はアキノ大統領が退いた後も、次期政権で和平プロセスが継続されるよう関係各所に根回しすることを強調しているが、次期大統領選で野党が政権を取った場合、現在の方針が引き継がれるかは極めて不透明である。政府とMILFはマレーシアが主導する国際停戦監視団の任務を延長することで合意し、2017年まで停戦を継続することを強調しているが、イスラム自治区の樹立にさらに時間がかかった場合、MILF内部の不満が高まり、再び暴発する可能性も否定できない。アロヨ前政権下では、最高裁の合意文書への違憲判決により和平交渉が白紙に戻り、武力衝突が激化した経緯がある。
10日にはマギンダナオ州で、和平反対派のMILF分派であるバンサモロ自由戦士(BIFF)を掃討中の国軍部隊が、MILFと銃撃戦となる事件が起きている。MILFは国軍部隊が支配領域に接近したため攻撃したと主張し、国軍側はMILFとBIFFを誤認して反撃したと説明しているが、依然として大規模な戦闘が勃発しかねない緊迫した状況が浮き彫りとなった。BIFFはバンサモロ基本法案の可決が先送りになったのを機に活動を活発化させており、政府の道路建設プロジェクトへの妨害を行うなど、警備任務の国軍との戦闘を繰り返している。
フィリピン国内にはMILFなどのイスラム反政府勢力のほかにも、フィリピン共産党の新人民軍(NPA)が活動している。アキノ政権下では、NPA幹部の不逮捕特権をめぐって対立が深まり、和平に関する話し合いは長らく途絶えていたが、次期政権では共産勢力との和平問題も大きな課題となりそうだ。
NPAは鉱山や農園などを経営している企業に対し「革命税」の支払いを要求し、恐喝の襲撃を繰り返しているほか、選挙期間になると候補者に対して、活動地域での選挙活動を妨害しない見返りに「保護費」を要求するなどして活動資金を得ている反政府勢力。国軍や国家警察との衝突も頻発しており、16日にはルソン島北部カガヤン州で、企業の襲撃現場に駆け付けた警官隊がNPAの待ち伏せ攻撃を受け警官14人が死傷する事件が起きている。NPAはルソン島北部やミンダナオ島などで活動し、外国企業をターゲットにすることも多く、経済発展の大きな妨げとなっている。