サイバー強国のサイバー戦
攻撃を重視する米露中
日本も縛りなき戦略を持て
本欄で、3月以来サイバー戦などについて、4回にわたって考えてきた。
ここでは、サイバー強国である米、露、中の3カ国のサイバー戦に対する基本的な考えを検討してみたい。結論を先取りすれば、これら3カ国は、核戦争対応と同様に、サイバー戦においても攻撃を重要視している。
米国は、2000年に統合参謀本部が2020年を見すえた統合戦略「ジョイント・ビジョン2020」を発表した。その中で、新しい概念として敵性勢力(adversaries)は米国の強点を避け、著しく異なる作戦方式を用い、米国の潜在的脆弱(ぜいじゃく)性につけ込む非対称戦略、つまり従来の戦いばかりでなく、別次元の作戦行動をとるだろう。主要な敵性勢力として中国やロシアを想定しており、「情報での優越性」の重要性を挙げ、米国のネットワークの防御とともに、敵のコンピューターに対する「妨害、破壊活動」も情報戦の手段としている。
10年2月の「4年ごとの国防計画の見直し」(QDR)で、「サイバー空間における敵対行動に対しては、その他の脅威に対するのと同様に対応し、米国は軍事を含むあらゆる手段を国際法に合致した形で適切に行使する権利を留保する」としている。
11年、米政府は「サイバー空間国際戦略」、国防総省は「サイバー空間戦略」を発表した。これらをさらに具体化する大統領政策指令第20号「米国のサイバー作戦政策」(機密)が、12年10月に出され「世界中の敵や標的に対して警告なしで重大な損害を与えて、国家目標を前進させる」、そのため「半年以内に攻撃目標を設定する」よう求めている(スノーデン氏による暴露)。
エリツィン政権及びプーチン第1期政権において、軍事ドクトリンで核兵器の使用及び先制核使用に触れ、メドベージェフ政権でもこれらを継続し、地域戦争、局地戦争でも先制的な(予防的な)核攻撃を行う可能性も排除していない(詳細は拙著『力の信奉者ロシア』)。
メドベージェフ政権末期に、国防省は「サイバー戦構想」を発表した(本欄6月4日)。軍事ドクトリンにある物理的戦争(動的戦争)の考えを、そのままサイバー戦争に適用している。つまり、米国と同じ立場をとり、サイバー戦争において、個別的及び集団的自衛権を行使する。
また、プーチン首相(当時)は、大統領再選を目指していた12年初め、選挙公約的な7論文を発表した。その中の一つで、「サイバー空間における軍事能力が、戦争の性格を決定する上で大きな意義を有する」「サイバー戦能力は、軍事力のように戦争の結末に決定的な影響を与えるものではないが、ロシアが安全保障上拠り所にしている核兵器に匹敵する効果をもたらし、しかも、使用の閾値(いきち)は非常に低い」との見解を述べている。この後半部分は、米国の公表文書になく、直截(ちょくせつ)的かつ至当な考えを公表している。
中国は「核先制不使用」を表明しているが、内部文書では場合によっては「核先制使用も検討する」としている。表裏不一致は「厚黒学(*)」の中国らしい。
中国は、ハイテク近代軍を目指すとともに、軍事の常識を越えた新しい次元の戦争、あらゆる次元と限界を超えて戦われる「超限戦」(空軍大佐喬良、王湘穂『超限戦』99年中国で発刊。01年邦訳・共同通信社)を行う。近代軍が能力を発揮し得ない戦場を選び、交戦手段とは思ってもいなかった手段を用いて戦う、非対称戦を存分に駆使する方法である。非対称戦の代表はテロ、ゲリラである。また、サイバー空間の活用でもある。
09年の「米中経済安全保障再検討委員会年次報告書」は中国人民解放軍は紛争の初期段階において、敵対する政府及び軍の情報システムに対して、コンピューターネットワーク作戦を実施する可能性がある、としている。
11年の米国防総省「中国の軍事及び安全保障年次報告」は、「人民解放軍は、敵のコンピューターシステム及びネットワークを攻撃するためのウイルスや、中国自身のコンピューターシステム及びネットワークを防御するための情報戦部隊を設立した。これらの部隊には民兵が含まれており、軍のネットワークオペレーターと中国の民間の情報技術専門家とのつながりを生みだしている」と指摘している。
これまで専守防衛を標榜してきた日本にとって、国家の生存において自ら縛りをかける愚から脱却する秋(とき)がきている。サイバー攻撃の態様が一層複雑・巧妙化し、サイバー空間をとりまくリスクが深刻化する状況を踏まえ、サイバー強国は攻撃を重視している。これを教訓に、日本もサイバー領域ばかりでなく、国家の安全保障において、普通の国並みに縛りをかけない戦略を構想するべきだ。
(いぬい・いちう)
*厚かましく、かつ腹黒く生きよ(李宗吾)