憲法9条は正しく改正せよ
東京・朝日の“提案”論外
集団的自衛権縛り国守れず
安全保障関連法は成立したが、昨年の通常国会の審議における政府の法案説明は不十分で、国民の理解を得るには不徹底である。野党は結束して来る参院選挙に向け今次通常国会でも同法を「戦争法」と称して廃棄を叫び、護憲派と連携して国民大衆を煽動するだろう。
また野党は、現憲法第9条厳守を重要公約として選挙戦に臨むであろう。国民の憲法に対する関心も深まりつつある。与党は勢力優勢の好機に憲法改正、特に緊急重要な第9条改正を選挙に勝ちぬいて達成すべきである。そのため、自由民主党は過去の憲法改正への努力の不足を反省し、また国民に、野党・護憲派の第9条をもって「平和憲法論」を説く愚を知らせる必要があろう。
わが国は、昭和20(1945)年8月、大東亜戦争に敗れ、米軍等の占領下になり、ほとんどの都市が廃墟となり、田畑は荒れ、国民は飢餓線上にあった。憲法発布は翌21年11月3日である。当時、復興の目途は全くついていなかった。吉田茂総理は国会で「正当防衛(自衛権)の名目で、多くの侵略戦争が行われてきた故に、正当防衛(自衛権)の行使は認めない」と所信表明した。総理として重大な失言である。
国防は軍事力、経済力、外交、国民の防衛意欲の結集で成立する。総理は、当面の政策を述べるとしても、将来を見据えて、国防は国家存立のため必要であることを言明し、「残念ながら現状は、経済は逼迫し再軍備する余力を欠くため、これを米軍事力に委託し、米国の保護を受け、当面は経済再建に全力を投入する」と、すべきであった。
吉田総理は、国防の重要性を熟知していたであろう。しかし、それは公言できない占領下の状況であった。昭和27年4月、日本は主権を回復した。昭和30(1955)年、保守合同し新たに自由民主党が成立した。「党の使命」という基本文書を発表し「初期の占領政策の方向が、主としてわが国の弱体化に置かれていたため、憲法を始め教育制度その他の諸制度の改革に当り、不当に国家観念と愛国心を抑圧し、また国権を過度に分裂弱化させたものが少なくない」として「第一、国民道義の確立と教育の改革 第二、政官界の刷新 第三、経済自立の達成 第四、福祉社会の建設 第五、平和外交の積極的展開 第六、現行憲法の自主的改正を始めとする独立体制の整備を強力に実行し、もって、国民の負託に応えんとするものである」と強調したが、「経重防軽」政策を継続し、平和に狎(な)れた多くの国民はこれを支持した。
昭和60(1985)年11月、自民党は立党30年に新政策綱領を発表し「自主憲法制定を立党以来の党是として再確認」し、その後、平成17年に「新憲法草案」、平成24年に「憲法改正草案」を発表した。しかし、宣伝活動は不十分で、特に現議員の選挙区における活躍は今回の安保法制に際しても殆んど見られなかった。
敗戦後70年も平和に恵まれて「平和ボケ」した国民も、国際情勢の悪化に気付き、国防や、憲法第9条について関心を持つようになった。安倍総理の熱意による安保法の制定は、緊迫する国際情勢に対応するため、最重要かつ緊急の課題である憲法改正についても道筋をつけたと言えよう。
が、それを感じ取ったためか、これを逆手に取った主張が護憲論調の新聞でなされるようになった。東京新聞(10・14)は「平和のための新9条」と題し、ジャーナリストの今井一氏と、伊勢崎賢治、小林節両大学教授の私案を紹介している。今井氏案は7項目だが、要点4項目を挙げると、①侵略戦争の放棄②個別的自衛権行使は承認するが、集団的自衛権の行使は認めない③専守防衛に徹した陸海空自衛隊の保持④自衛隊の中立的立場から非戦闘地域、周辺地域の人道支援活動による国際貢献――というものだ。
これについて他の2教授も異論はないようだ。小林氏は「海外派兵は認めない憲法の本旨を明確にするため、自衛隊の役割として……『専守防衛』と、国連安保理の決議がなければ海外に出さない…。…同盟国の要請では海外には出ないので、集団的自衛権の行使は認めない」としている。
一方、伊勢崎教授は、①国連憲章を基調とし集団安全保障を誠実に希求②国際紛争解決の手段として武力による威嚇又は行使の放棄③個別的自衛権のみを行使し、集団的自衛権の行使はしない④個別的自衛権行使のための陸海空の自衛戦力の保持――の4項目を提示している。しかし、国連の使命ともいえる安全保障のための憲章第42条に示す不正な侵略に対する制裁には参加せず、一国平和主義に止まるのだろうか。
朝日新聞(11・10)も「『新9条』相次ぐ提案」と題し、伊勢崎教授、評論家・田原総一朗氏ほか文芸評論家・加藤典洋氏、映画作家・想田和弘氏、作家・池澤夏樹氏、書籍情報社代表・矢部宏治氏らの考えを紹介した。田原氏以外の全員が、前述の東京新聞掲載の意見と同じく、専守防衛を厳守し、個別的自衛権を認めているが、集団的自衛権の行使は不承認である。いずれにしても、これでは日米同盟は機能しない。在日米軍基地は日本防衛のためだけに必要なのではない。現代戦における国防は、集団的自衛権行使不承認で専守防衛だけでは成立しない。
(たけだ・ごろう)