科学と文化の衝突


韓国紙セゲイルボ・コラム「説往説来」

 マーズ(MERS、中東呼吸器症候群)騒動を見ながら、科学と文化は時折、衝突するということをいまさらのように感じた。文化的な慣習や習慣は科学的な合理性と整合しないことが多い。マーズの拡散は医療科学と韓国の“人情文化”の衝突だと見ることができる。科学は確実性を土台に運営されるが、生態系をみても確実性とともに不確実性を認めなければならない。完璧な適応はかえって自然の突発的な変化に対処できない場合も多いためだ。それで文化は科学以外の象徴的な秩序を持つようになる。

 人間にとって不確実性の代表的なものは戦争や疾病だ。よく大量殺戮(さつりく)によって戦争による死亡者が最も多いと考えるが、実は疾病による死亡者が一番多い。世界保健機関(WHO)によると、現在までウイルス性疾患の中では、いわゆる“スペインかぜ”(1918年)の死亡者が全世界的に2500万~5000万人と一番多い。わが国でも当時、14万人が死亡したという。ちなみに第1次世界大戦の死亡者は850万人だ。スペインかぜに次いで、アジアかぜ(1957年)で200万人、香港かぜ(1968年)で75万人が死亡した。医学の発達によって疾病による死亡者は減少しているが、エイズや鳥インフルエンザ、サーズ(SARS)など、人間に脅威を与える新種の疾病の攻撃も侮れない。これが生態系だ。

 今回、韓国に上陸したマーズがうまく終息に向かわないのは、初期対応の失敗にも原因があるが、応急室への家族の出入りが制限されていない医療慣行と韓国の家族看護の文化が根本的な問題として浮上している。韓国は世界でも珍しい厚い“情の文化”の国だ。一人が病気になると、部落の人たちや全国の親戚がお見舞いしようと騒ぎ始める。時には田舎からバスを借り切ってお見舞いに来たりもする。

 ソウル大学は1978年、現在の大学路病院を開院し、ヨーロッパや米国のように看護師が完全看護すると宣言したが、半年もせずに放棄した。小児科病棟に幼児を入院させた父母たちが激しく抗議したためだ。完全看護のために看護師を増員する費用もばかにならなかった。完全看護を行う先進国は大概、看護師5人当たり患者2人だが、韓国はその反対に患者5人当たり看護師2人だ。恐らく韓国は医療保険料の増額よりは、家族看護に固執するはずだ。将来、医療情報の共有など、韓国の医療体系がもう一段階成熟しなければならないことはもちろんだが、人情文化も放棄しなければならないかもしれない。

(6月20日付)

※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。