防衛省設置法、「文民統制」には反しない
防衛省設置法の改正によって、統合幕僚長、陸海空幕僚長と内局官僚が同格で防衛相を補佐することが明確化された。これで、他の主要諸国には見られない異様な状況が解消されたことを歓迎する。
ただ、これによって防衛行政、自衛隊運用が改善されるわけではなく、課題も多い。
内局官僚と自衛官が同格
今回の内局官僚、自衛官同格の規定の背景には、1990年代以降、自衛隊の活動が大幅に拡大し、現場の実情に詳しい自衛官の意見の重要性が増したことがある。
これについて、依然として「文民統制(シビリアンコントロール)に反する」との見方が一部にあるが、誤解である。この場合の「シビリアン」は内局官僚ではなく政治任命ポスト着任者である。現在の法制ではシビリアンは大臣、副大臣、政務官だけであり、内局官僚はコントロールされる立場にある。
我が国ではこのほかにも、シビリアンコントロールに絡まる誤解が少なくない。「自衛官は政治問題について発言すべきではない」との主張はその典型だ。しかし、この主張を是認すれば、本来のシビリアンコントロールは有効に機能しない。
第1次世界大戦以降、その規模に関係なく戦いは国家の総力を挙げるものとなっている。また。クラウゼヴィッツ将軍の指摘を待つまでもなく、「戦争は政治の継続」である。従って、政治に全く無関係に、自衛隊の的確な運用ができない点に留意する必要がある。
かつてカーター米政権の在韓米軍撤退決定に対して、在韓米軍参謀長のシングローブ少将が撤退反対の提言をしたことがあった。同少将が発言直後、南方軍司令官に転属になったこともあって、わが国ではこれをシビリアンコントロール違反と見る向きが多かった。
だが、米議会はこの問題を取り上げ、審議した結果、同少将の警告通り、撤退は北朝鮮政府に誤まった判断を与えかねないとして撤退中止を決議。カーター大統領もこれを受け入れた。シビリアンコントロールに反するどころか、逆に政治によるコントロールが有効に働いた好例である。
それゆえ自衛隊の将官も職掌に絡む問題については、政策策定段階のみならず決定された政策についても、防衛相に積極的に進言して政治による判断是正を求めることは許される。それのみならず、それは将官の責務ですらあるのだ。
自衛隊首脳は自衛隊運用について大臣を補佐するため、政治に関する知識・識見を保有することが肝要である。防衛大学校や隊内各種教育機関における教育内容についても、諸外国同様に的確な政治教育が必要となろう。現代戦は武器だけでなく、思想の戦いも重視されている点を忘れてはならない。
殉職補償額の低さは問題
国会での安保法制の見直しに絡んで、一部野党によって「自衛官の死傷のリスクの上昇」が問題とされた。
わが国では殉職自衛官の補償額は警察官より低い。これでは優秀な人材は確保できないことを知るべきだ。
(6月12日付社説)