腰を据えて着実な安保法案の成立を
政府は、集団的自衛権の行使を可能にする安全保障関連法案について合憲見解を提示した。
自民、公明の与党は今通常国会中の成立を目指し今月24日までの会期を延長する方針だが、脇の甘さが見られる。気を引き締めて法案の審議に当たってほしい。
政府が合憲見解示す
政府が合憲見解を示したのは、衆院憲法審査会で自民党推薦を含む参考人の憲法学者3人が「違憲」と指摘したからだ。民主党など野党が法案撤回を求め、波紋が生じた。
憲法の改正原案を審議する憲法審査会では幅広い議論が行われるべきで、9条改正の必要性についての問題提起もあり得よう。しかし、後半の通常国会で最重要課題である安保関連法案の審議中に、昨年7月1日に閣議決定した集団的自衛権行使の一部容認という政府憲法解釈と整合性の取れない考えを持つ学者を推薦したのはミスだ。
自民党が議員数で優位に立つ「一強多弱」であるが、だからこそ与党は緊張感を持って後半国会に臨んでいかなければならない。
民主、共産などの野党は安保関連法案の廃案に向けて対決姿勢を示し、徹底抗戦する構えである。だが日本を取り巻く安保環境が悪化する中、こうした姿勢では、かつての国連平和維持活動(PKO)協力法案に「海外派兵反対」を唱えて徹底した牛歩戦術で抵抗し、その後、国民の支持が離れていった旧社会党のようになりかねない。
一方、昨年の閣議決定後に行われた衆院選では集団的自衛権問題が争点となる中で安倍政権は大勝しているが、これで決着が付いたわけではない。
安保関連法案をめぐって、与党は選挙で惨敗した民主党など野党と審議を行っている。しかし、本質的には吉田茂内閣以来の戦後歴代内閣が集団的自衛権の行使はできないとする憲法解釈の上で累々と築き上げた安保政策や国会答弁を相手にしているのだと言える。
それだけに手強いと見て掛かる心構えが必要だろう。自民党推薦の参考人による「違憲」見解などが出たり、引退した元官僚や元閣僚がマスコミで異論を語ったりするのはそのためだ。
戦後という時代を相手にした一大改革である。安倍政権は我が国の防衛はもちろん、在外邦人の安全確保、国家存亡にかかわる国際秩序の維持のために、日米同盟を強化していく以外に現実的対処の方法がない以上、必要不可欠な措置であることを誠心誠意訴えてほしい。
一方、政府の憲法解釈が論議を呼ぶ原因は、国会が建設的な憲法改正案を国民に提起しない不作為にある。1954年に自衛隊が発足した際にも、国会では野党が「自衛隊違憲論」を振りかざして反自衛隊の一大運動を扇動した。
野党の姿勢は本末転倒
今では政府の憲法解釈によって創設された自衛隊への支持は9割を超している。自衛権は国家が国民を守るための当然の権利であるが、法整備を怠れば手足を縛ることになる。
改憲にも安保関連法案にも反対する野党の姿勢は本末転倒である。
(6月11日付社説)