G7サミット、中国への圧力で大きな成果
ドイツ南部エルマウで開催された主要7カ国(G7)首脳会議(サミット)は「自由と法の支配」を共通理念に一致結束するとの首脳宣言を発表した。
さらに、中国やロシアを念頭に「力による領土の現状変更の試みを許さない」との姿勢を示し、両国を厳しく批判したことが最大の注目点と言える。
埋め立てに「強く反対」
日本にとって最大の成果は、首脳宣言が「東シナ海や南シナ海での緊張を深く懸念する」と表明した上で、名指しを避けつつも、南シナ海での大規模な岩礁埋め立てを含めた中国の現状変更の試みに「強く反対する」として、容認しない立場を明確にしたことである。
中国は埋め立てによる人工島の建設が軍事目的であることを明言している。すでに滑走路などの建設を進めており、航行の自由が脅かされかねない事態である。
これまで中国への対応で、安全保障面を重視する日米と経済利益中心の欧州諸国との間には温度差があった。中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)に、欧州諸国は相次いで参加を表明した。
欧州は東アジアから遠いことから、中国の“脅威”について、それほど関心は高くなかった。その欧州を含めた7カ国の首脳がこのように対中批判を行ったのは、安倍晋三首相が討議で「東シナ海や南シナ海での一方的な現状変更の試みを放置してはならない」と述べたことが大きい。G7が結束して中国に圧力をかけるよう日本が主導権を発揮した。
中国は、まぎれもない我が国の国土である尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺でも、公船による領海侵入という傍若無人な行動を繰り返している。G7の「自由と法の支配」という価値観に真っ向から反する中国の不法行為について安倍首相が説明し、首脳宣言で反対の意思を明示することに他の首脳が賛同したことは極めて意義深い。
首脳宣言では、ロシアによるウクライナ南部クリミア半島の違法な併合も厳しく批判した。ウクライナ情勢では、東部で親ロシア派を支援しているとされるロシアが停戦合意を完全履行しない限り、対露制裁を継続し、追加制裁も辞さない方針を盛り込んだ。
クリミア併合を改めて非難したのは、力による現状変更の試みは国際秩序への挑戦であるからだ。中国による領海侵入や人工島建設も同じである。
対露外交をめぐっては、ロシアと強い経済的つながりを持つ欧州と、対決姿勢を貫く米国との間に温度差がある。日本もロシアとの間に北方領土問題を抱え、安倍首相は領土交渉に道筋を付けるため、ロシアのプーチン大統領の年内訪日を実現したい考えだ。
対露制裁を継続せよ
だが、北方領土もクリミアも力による現状変更によってロシアに不法占拠されていることを忘れてはならない。
領土の一体性を脅かすロシアの動きを黙認すれば、中国に誤ったメッセージを送ることにもなりかねない。G7は今後もロシアに圧力をかけ続けることが求められる。
(6月10日付社説)