齢者地方移住、一極集中是正へ有力な施策


 民間有識者でつくる日本創成会議は、東京圏で高齢者が急増し、2025年に介護施設が約13万床不足するとの推計をまとめ、その解決策として、東京圏に住む高齢者の地方移住を促進するよう提言した。

 東京圏での介護施設不足は今のうちに手を打たなければならない切実な問題だ。また人口減や「地方消滅」は、東京一極集中が是正されない限り克服は難しい。創成会議の提言は、これらの課題に対処する有力な施策の一つとして推進する価値のあるものだ。

東京圏で75歳以上が急増

 25年には、いわゆる「団塊の世代」が75歳以上となり、埼玉、千葉、神奈川3県を含む東京圏で75歳以上人口は175万人増加し、全国の増加数の3分の1を占める。創成会議の推計によると、東京圏の特別養護老人ホームなどの高齢者受け入れ能力は、15年時点では約1万床の余裕があるものの、25年には約13万床、40年には約16万床足りなくなり深刻さが増す見通しだ。

 一方、東京圏で介護施設を整備しようとする場合、まず土地確保が難しい上、自治体にコスト負担がのしかかる。

 さらに東京圏での介護需要の高まりで、介護人材が地方から東京圏に流入する可能性があると分析。地方では介護サービスが雇用の受け皿となっており、介護人材の流出が地方の「消滅」に拍車を掛ける恐れを指摘している。

 これらの対策として創成会議は、国や地方自治体が高齢者の移住費用助成など支援策を強化するよう提言。北海道函館市や高知市など介護サービスが整う41地域を移住候補地として公表した。

 介護問題を抜きにしても、高齢者が生活する場所としては、東京圏よりも地方の方が適していると言えよう。定年退職後、第二の人生を送るために移住する人が増えるのは地方にとっても歓迎すべきことだろう。

 だが、年を取ってからの移住は、かなりの冒険とも言える。住み慣れた土地で暮らすのが一番という考え方も根強くある。しかし、そういう固定観念を捨て、介護に不安のない新しい土地で老年を過ごすということは、決して悪い選択ではない。新しい土地で新しい経験をすること、特にその土地に何か思い入れがあったり、風土・文化に引かれたりするものがあれば、充実した晩年に繋(つな)がるだろう。

 いずれにしても、高齢者が介護サービスを安心して受けられるようにすることは切実な課題である。最後は、一人一人の考え方次第である。

 高齢者の地方への移住は、さまざまな影響を及ぼすだろう。介護需要の高まりで若い人々を地方に繋ぎ止めることに役立つだろうし、消費の活性化も期待される。その一方で、ただでさえ地方においては人口に占める高齢者の割合が高い中、「地方は老人が住む所」のようなイメージが生まれることは避けなければならない。

子育て世代にも力入れよ

 そのためにも、東京圏からの子育て世代の移住に力を入れる必要がある。人口・年齢層のバランスを取れるように、施策を講じていくべきだ。

(6月9日付社説)