日ウクライナ、有意義な対露政策での連携


 安倍晋三首相がウクライナの首都キエフで、ポロシェンコ大統領と会談した。ロシアによるウクライナ領クリミア半島併合後も政府軍と親ロシア派の衝突が続くウクライナ情勢について、両首脳は「力による現状変更を決して認めない」との認識で一致し、親露派を後押しするロシアを牽制した。対露政策で両国が連携の意向を示したことは極めて有意義と言えよう。

 G7の結束示す狙い

 日本の首相のウクライナ訪問は初めてだ。安倍首相は「停戦合意が守られていないのは大変遺憾だ。ロシア、ウクライナによる合意の完全な履行が重要だ」と要請。また、ウクライナの安定に向けて日本が財政支援していく方針を伝えた。

 ポロシェンコ大統領は「ウクライナと日本には共通の隣国がある。ウクライナとの間ではクリミア半島併合の問題があり、日本には北方領土問題が生じている」と指摘した。クリミア半島も北方領土も、ロシアが不法に占拠している。

 もっとも、膠着状態に陥った北方領土交渉の打開を目指す安倍首相は、ロシアのプーチン大統領の年内訪日を実現したいと考えている。しかし、米国などは日本とロシアの接近を警戒している。

 オバマ米大統領は、クリミア半島を武力併合したロシアを強く批判しており、今回の先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)でも対露制裁継続を訴える見通しである。安倍首相がサミット直前にウクライナを訪問したのは、米国の警戒心を解くためだ。首相は主権と領土の一体性を尊重する立場に立って、ロシアとの関係改善よりもG7の結束を優先させるべきである。

 わが国にとって最大の懸念材料は中露の接近だ。ロシアで5月9日に対独戦勝70年記念式典が開かれた際、ロシアによるウクライナへの軍事介入に抗議して日米欧の主要国首脳が参加を見送った中、プーチン大統領に終始寄り添い、「主賓」のように振る舞ったのが中国の習近平国家主席だった。

 その時の中露首脳会談は「歴史の見直しを認めない」と強調した。明らかに安倍政権を牽制する発言だ。中国側は中露接近が日米欧の警戒を高めるリスクを承知の上で「多くの核心的利益を共有する相手」としてロシア重視の姿勢を示した。その背景にあるのは「力」で日米欧を圧倒しようとする中露の強い意思である。両国が共同で国際秩序を揺さぶろうとする事態に日米欧は備えなければならない。

 注目されるのは、中露の経済連携の動きだ。中露首脳会談では、中国と欧州を陸路で結ぶ経済圏「シルクロード経済ベルト」構想と、ロシアとカザフスタン、ベラルーシなど旧ソ連諸国で構成する経済圏「ユーラシア経済同盟」の連携を強化することで合意した。

 中露接近が懸念材料

 ロシアはユーラシア経済同盟の加盟国を増やし、欧州連合(EU)のような経済圏とすることを構想している。プーチン氏は両国の構想について「互いを補い合うことができる」と強調している。日本の対露、対東欧外交展開の上で見逃せない動きと言えよう。

(6月8日付社説)