密漁、軍事と理不尽な中国

杉山 蕃元統幕議長 杉山 蕃

一事が万事の横暴ぶり

ルールに則り毅然と対応を

 中国漁船の小笠原海域での不法な赤サンゴ密漁が問題となり、政府・海上保安庁は重い腰を上げ、取り締まり強化に動き出した旨報道されている。他方、比・越・台等と領有権について係争が続く南シナ海群島での中国の本格的基地整備も急ピッチで進んでいるようである。我が国の領土である尖閣諸島への理不尽な行動は勿論、尖閣上空への中国防衛識別圏(ADIZ)の公告が非難される。ADIZ自体は、当該国防空上の見地から設けるもので、基本的にはその国の勝手である。しかし、今回のように軍への事前通告を必要とする等の処置を義務付ける行為は国際航空協定上理不尽な公告であるし、我が国領空主権への侵害でもある。

 軍事面での膨張も著しい。訓練用空母「遼寧」に続き、国産空母2隻の「鋼板切断式」が行われた。大連及び江南造船所で建造し、一隻は「遼寧」タイプのジャンプ台型、もう一隻は、全通・カタパルト型の本格空母という情報がある。空母搭載機についても、ウクライナ紛争でロシア擁護の立場をとる見返りに成算がついたと見られている。原子力潜水艦の開発配備も進んでいるようであり、年々隻数を増加させている。特に、南シナ海・東シナ海において、自己の主張を押し通す理不尽な行動が相次ぎ、周辺関係国にとって横暴極まりない行動と捉えられているのは読者周知の通りである。

 本年春、筆者は孫の顔見たさに、中東に勤務する息子一家と地中海クルーズ旅行と洒落込んだ。その際、実に貴重な体験をした。空港からヴェネチアに向かう鉄道に乗り、予約した座席に向かうべく移動していた時のことである。孫を乗せたベビーカーを押して移動中、大きなバッグを通路に置いてシートの握り手にひもで結びつけ、素知らぬ顔をしている若い中国人女性がいたのである。

 周囲のイタリア人乗客は孫に「オー、バンビーノ」とか言いながら好意的である。やむを得ずベビーカーを畳みかけたとき、イタリア人男性がひもを解いてバッグを棚に上げて通路を開けてくれた。イタリア人に感謝の言葉を発しながら、件(くだん)の中国人女性が我々をものすごい「憤怒」の目で睨みつけているのに気が付いた。「サンキュウ」と言いながら再び孫をベビーカーに座らせる間、異常な雰囲気が漂い、バッグを上げてくれた男性は、大きなゼスチャーで「ここは通路だ」と諭していたようであった。異国での若い女性の傍若無人な行為に、乗客はかなり不快感を持ったようだった。

 さらに、我々の乗った船は8万㌧を超える客船で、2000人の乗客であったが、親しくなったインドネシア人のルーム・スチュワードから、この船は「ノー“C”、ノー“K”」であると告げられ、如何に隣国の旅客が敬遠されているかを痛感した。勿論、乗客のなかには中国系の人たちも20人程度いたが、明らかに通常生活で米語を使っている人たちで、振る舞いその他北米系で違和感はなかった。その後、小旅行したイタリア各地で、中国人の団体旅行者と出くわしたが、決して行儀正しいとは言えない振る舞い様である。

 中国は北京五輪はじめ、各種の努力で国際化を行ってはいるものの、海外での不遜無礼な行動、周辺海空域での横暴な行動、加えて軍事力の増強に執念を持っているかのような行動等、世界中から好感を持たれているとは言い難い。我が国は隣国として種々の摩擦・係争があるのはやむを得ないところであるが、何より必要なのは、是是非非、国際ルールに則り毅然(きぜん)たる対応を失ってはならないことだろう。

 サンゴ密漁事案で言うならば、中国報道官は「中国は自然保護を重視し、サンゴの採取は禁止されている」旨公表し、「どうぞ厳重に取り締まってくれ」と言わんばかりの態度である。一方、我が国マスコミの中国国内の取材映像で、密漁業者との会話取材や、小笠原海域で撮影した漁船の漁船番号を写真で確認したところ、当該番号の漁船は他の海域で操業中で、パソコン上にリアルタイムで連絡が取れることが放映された。

 すなわち、中国の実情は、漁船番号の偽造・密売が横行し、かつ採取禁止の赤サンゴが大規模に流通する言わば「闇の世界」が現存する未成熟な状態にあり、取り締まりも真面目に行われていないのであろう。取り締まる側の海上保安庁も、巡視船の不足・体制不十分を訴えたり、国民の「不法行動を厳格に取り締まるべし」とする期待とはかけ離れている。海上自衛隊との省庁間協力による哨戒機の支援・連携、哨戒機の証拠映像を確保したうえで不法密漁船を検挙するなど、できることは一杯あった筈である。どうみても弱腰の対応と受け取らざるを得ない。

 衆議院解散・総選挙、首相指名・新内閣誕生、予算編成と目まぐるしい日程が予定されている。防衛面では予算業務は勿論、集団的自衛権の肉付けともいうべき法制整備、新ガイドライン作業など懸案が迫っている。この間是非、中国の軍事は勿論、民船を含めて、あらゆる出方に対応できるよう努めてもらいたい。我が国の目標は、国家としての誇りと国際社会における信頼にあり、我が国を陥れようとする態度をとる政権に対する弱腰な態度であってはならないと思う次第である。

(すぎやま・しげる)