災害に向き合う覚悟を持て

濱口 和久拓殖大学日本文化研究所客員教授 濱口 和久

一丸となり防災対策を

地震・台風が集中する日本

 東日本大震災以降、日本列島では自然災害が頻発している。今年に限ってみても、毎月のように日本列島のどこかで自然災害が起きている。2月に東日本を襲った記録的な大雪、8月の広島での集中豪雨による土砂災害、9月の御嶽山の噴火、10月には2週連続での大型台風の日本列島への接近・上陸。一番新しいところでは、犠牲者こそ1人も出なかったが、11月22日に長野県北部を襲った長野県神城断層地震。

 戦後、日本では戦争による日本人の犠牲者は1人も出していないが、自然災害による犠牲者の数は4万人を超えている。

 日本列島には、「土砂災害警戒区域」が20万カ所を超え、都道府県が選んだ「土砂災害危険箇所」も52万5307カ所もある。私たちは常に土砂災害の危険性と隣り合わせで暮らしているのだ。さらに、世界各地で起きている地震の約10パーセント、マグニチュード6クラスの地震の約4分の1が、日本列島に集中していることも忘れてはならない。

 今年8月に出版された土屋信行著『首都水没』(文春新書)には、最近の日本列島で起きている自然災害のメカニズムについて、素人にもわかり易く解説しているので、ここで一部を紹介したい。

 まずは台風についてだ。台風は毎年のように日本列島に接近・上陸しているが、最近の台風は、地球温暖化の影響もあり勢力が巨大化している。なぜ、台風が日本列島を襲うのか。台風は北緯5度から45度、東経100度から180度の範囲でしか発生せず、この範囲しか通過しない。台風は極めて限定された地域の気象現象であるが、日本列島は、その経路に位置しており、台風から逃れられない地政学的な地域に存在していることを日本人は知っておくべきだろう。

 つまり、台風が日本に襲ってくるのではなく、日本が台風の通り道にあるというほうが正確な表現なのである。台風の接近に伴い注意・警戒しなければならないのが高潮だ。高潮は台風とともにジワジワ水位が高くなるというよりも、突然襲ってくる現象で、破壊力を持って迫ってくる津波そのものである。日本での最大の高潮被害は、昭和34(1959)年に東海地方を襲った伊勢湾台風だ。死者・行方不明者は5098人。このときの高潮の高さは約5メートルに達し、名古屋港にあった材木が流木となって、住宅に襲いかかり、被害が拡大した。

 伊勢湾台風のあと、防潮堤整備の予算が増えたことにより、最近は高潮による大きな被害は起きていないが、高潮を甘く見るべきではない。特にゼロメートル地帯や都市部の地下鉄などの構内は、高潮には注意が必要となる。

 高潮と合わせて恐ろしいのが洪水である。洪水は上流でも下流でも起きる自然災害であり、1時間あたり50ミリを超える雨が降っているときは、家からの大量の排水は控えるべきだろう。特に浴槽の残り水を流すのは絶対に控えるべきである。河川の氾濫の危険性が増す可能性があるからだ。

 日本人の多くが、小学校の社会科(地理)の授業で、日本の国土は、約73パーセントが山岳地帯と丘陵地からなり、残りが台地と低地から構成されている、と習ったと思う。低地とは高さが海抜100メートル以下の地域で、低地の約70パーセントが、洪水になると水没する可能性がある。この低地に、日本人の約半分が集まって暮らし、総資産の約75パーセントが集中している。

 特に首都東京への一極集中はきわだっていて、国内総生産(GDP)は90兆円を超え、世界の国別ランキングで比べても、メキシコ、韓国、オランダなどより上位の世界第14位に位置している。東京は一つの国と同じ規模で発展しているのである。

 東京でひとたび首都直下地震や大きな自然災害が起きれば、首都機能が麻痺し、国家の存続にも重大な支障をきたすことは明らかであり、防災対策の停滞は絶対に許されない。

 加えて、南海トラフ巨大地震が発生した場合、伊豆半島から九州にいたる広範囲に被害がおよぶことが考えられる。その際、自衛隊だけでは到底対応できず、当然、警察、消防、海上保安庁、消防団などとの緊密な連携や協力態勢が必要となる。

 平成14(2002)年7月、阪神・淡路大震災の教訓を踏まえて、防災関係中央省庁推薦ならびに防災関係有識者や学界の指導的立場の人たちが参画し、防災士制度が創設された。現在、多くの地方自治体や企業が防災士の養成にのりだし、日本全国に約8万人の防災士が誕生している。

 防災士は自然災害の規模が大きいほど、公的な支援の到着が遅れるという現実に対応して、公的機関が機能を発揮するまでの間(おおむね3日間)、各自の家庭はもとより、地域や会社において、人々の生命や財産に関わる被害が少しでも軽減されるよう、被災現場で実際に役立つ活動を行うことが期待されている集団だ。

 災害列島日本に暮らす日本人は、自然災害から逃げられない運命にあるのであり、防災対策は日本人一丸となって取り組むべき永遠のテーマなのである。

(はまぐち・かずひさ)