成功したモディ印首相訪日
外交・精神とも「特別」に
中国の挑発には明確に言及
インドのモディ首相が訪日し、日本政府から熱烈な歓迎を受けた。モディ首相は天皇陛下に拝謁する栄誉をいただいたほか、安倍晋三首相とも数回にわたる会談、懇談の時間もいただいた。森喜朗元首相の話によると、ある会合において森元首相ほか要人の方々を相当な時間待たせたが、その分だけモディ首相と安倍首相の会談は長く、中身の濃いものになったという。
今回モディ首相は当初の予定よりも1日早く日本に到着し、京都で安倍首相と合流し共に寺院などでお祈りを捧げた。日本の真言密教の大本山を巡拝したことには大きな意味があると私は思う。仏教の中に○○天とか○○王、例えば「帝釈天」、「毘沙門天」或いは「不動明王」のような神々が尊ばれている。この仏教の神々はヒンズー教の神々でもある。
モディ首相は東京での日印友好議員連盟、日印協会の合同主催の歓迎会において「この度、安倍首相と私は日印関係を更に深化させ、“特別グローバル戦略パートナーシップ”へ一段上昇させ、格上げした。このスペシャル(特別)には二つの意味がある」と語った。「一つは文字通りの外交・防衛・経済などにおいての、“特別”関係であり、もう一つ重要な“特別”関係とは精神的なつながり、つまり両国民の心と心のつながりを意味する。聞くところによると、この日印協会は110歳の歴史を持っているという。2カ国間の関係において、最も古い団体である」。更に「今日この会場に日印関係に長年貢献したチャンドラ・ボースをはじめとする我が国の多くのリーダーたちと直接関わり、日印関係の歴史の証人たる人物(100歳になる三角氏)に敬意を払う」と話された。その後、檀上から降り、三角氏の席に立ち寄って身をかがめて直接言葉を交わされた。
日本のメディアには3兆5000億円の向こう5年間における経済協力のことや、インドにおける北東部の開発への多額の援助協力などについて書かれているほか、外交・防衛面においても具体的な合意ができたことが報道され、今まで日印間における連帯感を強調してきた人間として感無量のものがあった。しかし、それ以上に良かったことは、独立以来非同盟の姿勢を貫いてきたインドのモディ首相が、今回「18世紀の領土拡張主義的思考をやめなければならない」と言って、中国の最近の挑発的行為に対して明確に言及したことであった。
私は半世紀近く見てきた日本の政治史上、今回のモディ首相と安倍首相の親密度は、かつての中曽根康弘首相とアメリカのロナルド・レーガン大統領の間における「ロン・ヤス関係」以上のものか、それに匹敵するものであったと感じた。今回の日印両首脳の共同記者会見の中身も非常に実り多いものであったように思う。もしここでインドが望んだ日本からの原子力に関する協力が確定していれば、ほぼ完璧な日印関係が確立したと考える。
しかし、このことについても早期の締結に向けて、前進することが確認できている。勿論、日本側の世界で唯一の無差別核兵器被害を受けた国民の感情や、現在日本国内における反原発運動などを考えると、日本政府の立場も理解できないことはない。未だに日本国内においては原子力発電所が停止しているような状況の中で、中国は二十数カ所に新たに原子力発電所を造っていると言われる。
またフランス、カナダなど他の国々もインドに対して原子力の売り込みに積極的に働きかけていると聞く。インドが経済発展を継続的に進めるためには原子力をはじめエネルギー問題は重要な課題である。日本はインドと日本両国の国益のため、一日も早くこの問題を解決することを望む。日本の外務省の中にもこの問題に関して消極的な立場の方々もおられる。
日本とインドは言うまでもなく優秀な官僚たちによって支えられている。政策の立案や実行面においても重要な役割を果たしている。そして政治が不安定になったり、政治家が指導力を発揮できないときは、官僚たちが暴走することもあるが、幸いにしてモディ首相も安倍首相も権力集中型の内閣を組閣し、指導力を発揮している。
しかし、せっかく盛り上がってきた両国の熱い関係に水を差すようなことを行っている冷戦時代のイデオロギーから脱却できない報道機関などがある。私は両国の国民がこの良い機会を活かし、国民対国民の交流を盛んにし、文化、経済などの分野において飛躍的な活躍をされることを期待している。
今回の両国間における“特別”な関係という言葉に両国の首脳と国民は絵に描いた餅にならないよう努力されることも期待する。また、長きにおいてこの両国の“特別”な関係を心から願ってきた者として、「皆の友人は誰の友人にもなれない」という諺にもあるように八方美人的の全方位的外交ではなく、苦楽を共にする“特別”な関係を大切にしていくべきではないか。両国間においては大きな政治問題、外交問題もないことは幸いである。