朝日誤報を国際社会に伝えよ

秋山 昭八日韓弁護士協議会元会長 弁護士 秋山 昭八

日韓関係改善の契機に

過去に向き合う姿勢は必要

 朝日新聞は5日朝刊で、従軍慰安婦問題をめぐる報道について、誤りがあったとして一部を取り消した記事を掲載した。取り消したのは、「女性を強制連行した」との証言を紹介した記事で、同社は1982年から1990年代初めにかけて16回掲載したが、裏付けが得られなかったとして、ようやく取り消しをするに至った。

 これは、韓国の済州島で慰安婦にするために女性を強制連行したとする吉田清治氏の証言について、追加取材をした結果、虚偽だと判断し、また、戦時下に労働力として女性を動員した「女子勤労挺身(ていしん)隊」と慰安婦とを誤って混同した記事が複数あったことも認めたものだ。

 済州島で女性を慰安婦にするため強制連行したとする吉田清治氏の証言が、韓国の反日世論をあおっただけでなく、日本について誤った認識が世界に広がる根拠の一つとなったことは公知の事実で、誠に遺憾である。

 吉田証言は、1996年に国連人権委員会で報告された「クマラスワミ報告」(女性への暴力に関する特別報告書)にも引用され、慰安婦の強制連行があったとする誤解が、国際社会に拡大する一因となった。

 また、元慰安婦への「お詫びと反省」を表明した「河野談話」(「慰安婦関係調査結果に関する河野内閣官房長官談話」1993年8月4日)の原因となったと想像されている。

 「強制連行の有無」が慰安婦問題の本質であるのに、韓国の朴政権は、クマラスワミ報告などを根拠として、日本政府(河野談話作成過程等に関する検討チーム)が今年6月20日に発表した河野談話の検証結果にも強く反発しているが、同検討チームの検討結果によれば、強制連行については認める証拠がないとしており、当時、河野官房長官が記者会見の際に述べた部分も含め、河野談話には朝日新聞が今回誤報を認めた記事が影響したと思わざるを得ず、いささか行き過ぎがあったと言わざるを得ない。

 今回の誤報をきっかけに、今もなお、日韓両国の間には、歴史問題が最大の障害として横たわっている。双方が不毛な対立から脱し、未来志向の関係に踏み出すには、慰安婦の実態を踏まえ、正しい歴史認識を共有することが不可欠である。

 吉田清治氏の証言について、韓国のテレビ放送局MBCは1984年5月27日、40分のドキュメンタリー番組として放送し、また韓国の京郷新聞は1992年8月12日付で、訪韓した吉田氏が「私は日本政府の命令で韓国人従軍慰安婦を強制的に送り出す奴隷狩りだった」と語ったと報じた。吉田証言は、韓国政府が1992年7月に発表した慰安婦に関する実態調査中間報告書でも触れている。

 朝日新聞はこの記事で従軍慰安婦について「主として朝鮮人女性を挺身隊の名で強制連行した。その人数は8万とも20万ともいわれる」と説明しており、韓国の趙允旋女性家族相(当時)は昨年10月11日、国連総会で「(慰安婦は)10万人以上と推定される」とし「ある方は畑仕事の最中に引っ張られていった」と発言している。

 わが国としては、今回の取り消し記事とともに、先の検討チームによる報告書にもとづき、米国などの先進諸国はじめ国際社会に対して「慰安婦の強制連行を示すような証拠はない」という事実を伝え、理解してもらうことが重要である。

 日本側は、日韓両国が対等関係にあることを歓迎し、「未来志向でやっていこう」と呼びかけている。しかし韓国側は、「過去の問題を整理しないと、本当の意味で対等にならない。過去を克服して、初めて未来を語れる」という考え方にもとづいており、日本は、韓国がそういった立場にあることを理解し、過去の問題に向き合う姿勢を示さないといけない。

 2012年12月に発足した第2次安倍内閣発足後、歴史認識問題などで冷え込む日韓関係の改善に踏み出せずにいる現状を、今回の取り消し記事を契機として、いち早く打開する必要がある。

 2013年3月、朴槿恵大統領は、日本の植民地支配への抵抗運動「三・一独立運動」の記念式典で、「加害者と被害者という歴史的立場は1000年の歴史が流れても変えることはできない」と演説し、さらに、5月に訪米した際、米議会演説で「歴史に目を閉ざす者は未来が見えない」などと訴え、第三国で異例の対日批判を繰り広げた。

 安倍首相が国会答弁でいわゆる河野談話を継承する考えを表明しているが、前述の如きコメントを付加され、真の日韓友好関係が樹立されるとともに世界各国に真実を表明し、理解を得るため一層の努力を傾けられることを期待して止まない。

 (あきやま・しょうはち)