衆院鹿児島補選、勝って驕らず懸案に対処せよ
衆院鹿児島2区補欠選挙で、自民党新人で公明党推薦の候補が勝利した。消費税率が8%に引き上げられてから初の国政選挙だっただけに注目されたが、安倍晋三首相は勝利を自ら進める経済政策への信任と受け止め、引き続き景気回復に最優先で取り組む方針だ。
ただ、争点は消費増税だけだったわけではない。驕(おご)らずに山積する重要懸案の解決に対処しなければならない。
安倍政権への中間評価
今回の補選は、医療法人「徳洲会」グループの公職選挙法違反事件を受けた徳田毅前衆院議員の辞職に伴い実施された。従って、もともとの争点は「政治とカネ」の問題だったはずである。ところが、昨年11月、親族が逮捕されると徳田氏は自民党を離党、今年2月に辞職した。そのため、選挙戦では自民党は他人事のようだった。
政治資金の透明化の具体策に触れず、政治倫理の向上を訴えるというより、安倍政権の経済政策や環太平洋連携協定(TPP)交渉などをアピールし、自民、公明両党は「政権に対する中間評価」と位置付けた。それ故、首相や党幹部を奄美大島をはじめ現地に投入する総力戦を展開した。
ただ、確定投票率は45・99%で同選挙区としては過去最低。投票所に行った数が有権者の半数に至らず、勝利した金子万寿夫氏の得票数は前回の衆院選で徳田氏が得た約11万票から激減し6万6000票余だった。首相は「今まで進めてきた政策に一定の評価を頂いた」と語ったが、単純にすべての政策が「信任された」ととらえるべきではなかろう。
金子氏勝利につながった背景には、野党のちぐはぐな“共闘”ありきの姿勢が有権者に見透かされたこともあった。民主党は元衆院議員の打越明司氏を離党させて無所属候補とし、その上で日本維新の会、結いの党、生活の党と共闘して戦いに臨んだ。しかし、消費増税やTPP、原発再稼働、憲法、集団的自衛権行使の問題などで見解が異なり、争点を明確化できなかった。
自民1強の体制打破を目指し野党再編の動きが活発化しているが、国家の基本政策で一致しない再編は野合であり、国民はそれを良しとしない。そのことは今回の補選の教訓でもあろう。野党第1党の民主党は「安倍政権の暴走にブレーキをかける」との意気込みで臨んだが、連戦連敗の海江田万里代表の下で党再建ができるのかといった不満の声が出ている。党の左派執行部と保守派との対立を克服できなければ、来春の統一地方選で壊滅的な打撃を被ることは避けられまい。
一方の自民党も、高支持率の安倍首相のリーダーシップの下、補選で追い風を受けて政策推進の環境が改善されたと言える。だが、TPP交渉の行方や消費増税の影響がどうなるかで、政権の支持率も変化しよう。
慎重かつ謙虚に運営を
国会は大型連休明けから、集団的自衛権の行使容認の問題がメーンのテーマとなる。与党公明党に対する説得作業など重要課題が山積しており、慎重かつ謙虚に政権運営することが求められる。
(4月30日付社説)