深刻な異常気象続く ブラジル

旱魃で電力不足と砂嵐


背景に「アマゾンのサバンナ化」

 ブラジルで深刻な旱魃(かんばつ)をはじめとする異常気象が続いている。砂漠化による砂嵐まで発生し、専門家は「気候変動の始まり」を指摘するほどだ。ブラジルの豊富な自然・生態系を守ってきたアマゾン熱帯雨林やパンタナールは、違法伐採や森林火災で危機に直面しており、一刻も早い共存に向けた動きが求められている。(サンパウロ・綾村 悟)

 ブラジルで深刻な電力不足が発生し、ボルソナロ大統領が節電を呼び掛けるほど逼迫(ひっぱく)した状況となっている。原因は北東部と中南部で発生している深刻な旱魃だ。

ブラジル北部バラ州で、炎を上げて燃える熱帯雨林=2019年10月(AFP時事)

 ブラジルは総発電量の62%を水力発電に頼っているが、今年はダムへの流水量が平年より9割も減少。一部のダムでは、発電停止という事態にまで陥っているのだ。

 政府は緊急事態として、火力発電所の増設に踏み切ったほか、7月には50%近い電気料金値上げを行った。ブラジル気象庁の予測では、旱魃は数年続く可能性が高い。

 さらに、南東部サンパウロ州とミナスジェライス州では、9~10月にかけて旱魃によって砂漠化した農地から発生した砂嵐が相次いで発生し、少なくとも6人が死亡した。

 数千㍍もの高さに達した砂嵐が街を襲う映像は、テレビでも流れた。映画さながらに巨大な砂の壁が街をのみ込んでいく瞬間は衝撃的だった。

 「過去92年で最悪」といわれる旱魃が及ぼす影響は電力だけではない。ブラジル中部のサバンナ「セラード」や南東、中西部は、農産物の純輸出で世界1位に君臨するブラジルの穀倉地帯でもある。旱魃は、農業や牧畜などの食料生産にまで影響を及ぼしかねない状況だ。

 一方で、北部では今年5月に記録的な豪雨が続いた。コロンビア国境に近いアマゾン川支流の水位が上昇し、多くの家屋や港湾施設が水没した。

 ブラジル政府の災害監視センターに所属する気候学者のホセ・マレンゴ氏は、「旱魃などの異常気象は気候変動の影響だとみるべきで、今後も続くだろう」と警告している。

 ブラジルにおける気候変動の原因の一つと考えられているのが、開発による「アマゾン熱帯雨林のサバンナ化」だ。

 南米7カ国にまたがるアマゾン熱帯雨林は、地球全体の二酸化炭素の5%近くを吸収し、地球規模での気温や気象の安定化に寄与する存在だ。

 しかし、ブラジルが世界有数の農業大国となった背景には、アマゾンや世界最大の湿原パンタナール地域を含む森林資源を破壊してきたという事実がある。現政権の岩盤支持層の一つは農業団体だ。

 ブラジル国立宇宙研究所(INPE)は、昨年1年だけで秋田県の面積にも相当する森林が失われたと報告。違法伐採や森林火災により、森林の消失は今も続いている。

 英科学誌「ネイチャー」は昨年10月、2050年までにアマゾンの森林が40%失われるとの研究論文を掲載した。これが現実になれば、サバンナ化したアマゾンが引き金となる気候変動は避けられない。

 こうした中、INPEやサンパウロ大学など、ブラジルの研究機関が共同で、アマゾン熱帯雨林がサバンナ化した場合の気候変動モデルを発表した。

 研究結果は衝撃的なものだった。アマゾン熱帯雨林の森林消失が続いた場合、2100年までに周辺地域の平均気温が11度以上上昇し、同地域に住む2000万人のうち1200万人が居住困難なほどの酷暑に置かれるというのだ。

 温暖化が続けば、寒冷地を求める大規模な人口移動、国境を越えた移民が想定されるというのだ。

 INPEは、アマゾン熱帯雨林のサバンナ化により、同地域での降雨量が80%、中西部での降雨量が50%減少し、旱魃が常態化する恐れがあると指摘している。

 アマゾン熱帯雨林を抱えるブラジルは、地球温暖化と気候変動防止の要となっているだけでなく、世界の食料庫としての欠かせない役割を担っている。ブラジルの旱魃が深刻化すれば、世界の食糧需給バランスが崩れることにもなりかねない。