注目集める「YA論文」 、日本はトランプ再選支持?
対中強硬路線を評価
日本政府当局者が米外交誌に匿名で寄稿した英語論文が、日米関係の専門家らの間で注目を集めている。トランプ大統領の外交政策には不満があるものの、中国に対決姿勢を取っている点で、オバマ前政権よりはるかに好ましいと主張する内容だ。11月の米大統領選でトランプ氏の再選を歓迎しているとも読み取れるが、米国の対中強硬路線の継続を期待する安倍政権内の「空気」を反映しているといえそうだ。
論文は「YA」と名乗る「日本政府当局者」が執筆し、4月に米外交誌「アメリカン・インタレスト」(電子版)に掲載された。YA氏の正体は不明だが、日米の外交関係に精通しており、外務官僚の可能性がある。
論文はトランプ氏について、「さまざまな欠点があるが、日本にとっては、(中国の)挑戦を正しく理解する人物がやっとホワイトハウスに現れてくれたようだ」と指摘。同盟国にも経済的圧力をかけるトランプ氏に強い不満を示しつつも、「中国に対する米国の強硬姿勢は、その他のいかなる要素よりも重要だ」と主張した。
これに対し、オバマ政権は、中国が「責任あるステークホルダー(利害関係者)」に変わると信じて「関与(エンゲージメント)政策」を続けた。論文は、オバマ政権が「リベラル派知識層の主張をそのまま実行していた」ことを批判し、同政権が中国との協調を模索している間、中国は尖閣諸島周辺への艦艇派遣や南シナ海の人工島造成などの行動を取っていたと指摘した。
その上で、論文は「きちんと実行される曖昧戦略より、実行がお粗末でも正しい戦略のほうが良い」と、トランプ政権には問題が多いが、正しい対中戦略を持っている点を評価。「トランプ以前の世界に戻りたいか。多くの日本の政策決定者にとって、その答えはおそらくノーだ」と述べ、大統領選で政権が代わり、米国が再び対中関与政策に戻ることに強い警戒感を示した。
民主党のジョゼフ・バイデン前副大統領が当選しても、関与政策に戻るとは限らない。それでも、YA氏は、バイデン氏よりトランプ氏のほうが日本にとって好ましいとみているのは明らかだ。
論文はまた、台湾、フィリピン、ベトナム、インドなどのアジアのエリート層も、米国が関与政策に戻る危険性と比べれば、「トランプ氏の予測不能で取引中心のアプローチのほうがましだと判断するようになっている」との見方を示した。
(編集委員・早川俊行)