フィリピン、規制緩和に急ブレーキ
フィリピン政府は3月から続いた新型コロナウイルス対策に伴うロックダウン(都市封鎖)規制を、本格的な経済活動の再開に向け徐々に緩和してきたが、ここに来て急ブレーキがかかっている。規制緩和の影響とみられる感染拡大が各地で確認されているのだ。保健省の能力不足による対策の遅れや、海外から帰国した労働者が地方に感染を広げているとの見方もある。
(マニラ・福島純一)
セブ市などコロナ感染増加
海外労働者の帰国で地方に拡大
ドゥテルテ大統領は15日、マニラ首都圏における防疫レベルを6月30日まで規制緩和せず現状を維持する決定を下した。一方、感染の増加が続く中部のセブ市は、最も厳格なロックダウンに防疫レベルを強化した。再開したばかりの商業活動は生活必需品に関する店舗を除いてほぼ閉鎖され、外出規制や検問による移動の監視などの厳しい措置が復活する。
人口約92万人で国内5番目の都市であるセブ市では、6月に規制緩和されてから感染が増加傾向となった。最近では5日連続で100人を超える感染者が確認され、17日には1日の感染者が201人に達し、累計感染者は4000人を超えた。
この数値は人口約200万人を抱えるマニラ首都圏ケソン市の感染者2800人を超えるもので、政府を大いに焦らせた。大統領府のロケ報道官によると、セブ市内の病院は集中治療室がすでに満床で、隔離病棟は90%が埋まっているなど医療現場が危機的状況だという。
また、保健省の能力不足も新型コロナ対策を遅らせる一因となっている。対策を決めるうえで重要な判断基準となる感染者数などのデータが正確ではなかったことが発覚したのだ。具体的には5月末の段階で検査結果の処理が追い付かず、数千件が集計から漏れていることが分かったのだ。
ラクソン上院議員は「能力不足のおかげで解決策も終わりも見えない」と保健省の対応を強く批判。パンギリナン上院議員も1日当たり3万人の検査を実施するという目標が達成されていないと指摘し、保健省に能力向上を求めた。
さらにフィリピンが抱える特殊事情として、1000万人と言われる海外出稼ぎのフィリピン人労働者(OFW)の存在がある。世界的なパンデミックによって各国のOFWが失業を余儀なくされ、6月末までに少なくとも4万5000人が到着する予定で、帰国は年末まで続くとの見方もある。
帰国したOFWはホテルなどを貸し切った施設で2週間隔離され検査を受けるが、これが政府の大きな負担になっているのだ。検査能力が追い付かず、一部のOFWは1カ月以上も隔離が続くなど苦情が殺到。中には脱走して逮捕されるケースもあった。
このような状況に激怒したドゥテルテ大統領の命令で、現在はかなり隔離作業は迅速化しているが、検査結果の信頼性に疑問も生じている。検査で陰性となり帰郷したOFWが、地方で受けた再検査で陽性となるケースが相次ぎ、地方自治体を恐怖に陥れているのだ。OFWの帰郷により、それまで感染が確認されなかった地方で感染が拡大する懸念が広がっている。
そのため地方自治体が規制緩和で再開した国内線の受け入れを拒否し、フライトが突然キャンセルされるなどの混乱も広がっている。マニラ首都圏のニノイ・アキノ国際空港では一時約600人の乗客が足止めされ、空港近くで野宿を強いられる状況に陥った。
フィリピンにおける17日までの感染者数は2万7238人で、死者は1108人に達している。ここ1週間の新規感染者数は、1日250人から500人ほどの間で推移しており収束の兆しは見えない。フィリピン大学の専門家は、6月末までに感染者が4万人に達すると予測している。