「ブラジル版トランプ」が優勢、28日に大統領選決選投票
南米の大国ブラジルで28日、大統領選挙の決選投票が行われる。今回の選挙は、過激な発言を続ける元軍人の右派候補が少数政党からの出馬にもかかわらず躍進を続けており、ブラジルの政治史に残る選挙として注目を集めている。(サンパウロ・綾村 悟)
保守旋風巻き起こす
政界汚職や治安悪化が背景
今月7日に行われた選挙は、「右派と左派の対決」というフレーズがメディアを騒がせ、大きな注目を集めた。この日は、大統領選挙の第1回投票に加え、総数595人の上下両院国会議員と全国の州知事、州議員を選出する、まさにブラジルの今後数年の政治動向を決める「総選挙」だった。
その中で、主役として名を上げたのが、歯に衣(きぬ)着せぬ発言で「ブラジル版トランプ」と呼ばれる右派ジャイル・ボルソナロ下院議員(63)と、同氏が所属する社会自由党(PSL)だ。大統領選第1回投票ではボルソナロ氏がトップで通過した。
一方、大統領選挙で次点となったのが、主要左派政党の労働党(PT)から出馬したフェルナンド・アダジ元サンパウロ市長(55)だった。当初、労働党はカリスマ政治家として名高いルラ元大統領を出馬させる意向だった。
しかし、ルラ氏は、国営石油公社ペトロブラスをめぐる汚職に関与していたことが明るみになり、今年1月に収賄罪で実刑12年の判決を受けて収監中だ。ルラ陣営は、最後まで出馬を画策したが叶(かな)わず、知名度に劣るアダジ氏が9月初頭に急遽(きゅうきょ)大統領候補として登録された。
本来であれば、党勢でボルソナロ陣営をはるかに上回るアダジ氏が選挙戦を有利に戦えるはずだった。しかし、結果はボルソナロ氏が得票率46%で他候補を圧倒、アダジ氏は29%にとどまった。
ボルソナロ氏が所属する社会自由党は、今回の選挙前は上院議員ゼロ(総議席数82)、下院議員8人(総議員数513)の泡沫(ほうまつ)政党。ブラジルメディアは当初、同氏と社会自由党が幅広い支持を獲得できるとは想像していなかった。
その理由は、ブラジルの選挙では従来、知名度に加えて資金力や所属政党が持つ集票力が重要視されてきたことにある。1985年に民主化した後のブラジルでは、中道の2大政党と左派系の労働党が、地方から全国までブラジルの政界を牛耳ってきた。
ボルソナロ氏は、軍政賛美や同性愛批判、女性蔑視とも取れる発言に加え、銃規制緩和や凶悪犯罪に対する罰則強化を主張、保守的な価値観も合わさって、通常であればブラジルの大統領選挙で当選できるほどの幅広い支持を得られる候補ではない。
しかし、現在のブラジルは、政界に汚職が蔓延(まんえん)し、主要都市の治安は過去最悪という状況の中で、有権者は怒りや諦めにも近い感情を抱いている。こうした中で、ボルソナロ氏は、ソーシャルメディアを中心とした世論の支持を受けて保守旋風を巻き起こした。今や同氏が所属する社会自由党は下院で52議席に躍進し、第2党となった。
さらには、同氏の経済顧問の経済政策が市場寄りで、富裕層や経済界の支援も同氏の追い風となった。
加えて、社会自由党が国会の中で依然、少数政党であることも大統領選挙では有利に働いているとの分析もある。ボルソナロ氏が当選しても、国会運営では他党と連携することが避けられない。同氏は極端な政策を取ることができなくなる可能性が高く、こうした背景も「労働党に投票するぐらいであれば」という保守派や中道の支持層を取り込んでいる。
最新の世論調査では、ボルソナロ氏の支持率は59%で、特別なスキャンダルなどが出てこない限り、同氏の優位は変わらないとみられている。これに対し、アダジ陣営は「ボルソナロ氏が当選すれば民主主義が危機を迎える」と攻撃、浮動票の取り込みなど最後の追い込みに必死だ。

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