「ツイッター政治」、不用意発言が交渉力削ぐ
北朝鮮の非核化に向け中身の乏しかった米朝首脳会談の合意内容を受け、来週以降に行われるポンペオ国務長官らと北朝鮮当局者による協議で、非核化の期限や検証方法などがどう具体化されていくか注目される。
こうした中、懸念されるのは、トランプ米大統領の軽々しい発言が目立つことだ。同氏は12日首脳会談で北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長を「素晴らしい人柄」などと称賛しただけでなく、その後の記者会見で、米韓合同軍事演習の中止や在韓米軍の削減に言及するなど、北朝鮮側の主張に沿って譲歩する姿勢を示した。
また、トランプ氏は米朝会談を終えて帰国した13日、ツイッターで「もう北朝鮮の核の脅威はない」と成果を強調した。
これに対し、米有力シンクタンク、外交問題協議会のリチャード・ハース会長はツイッターで「明らかな間違い」だと批判。「首脳会談によって何も変わっていない。むしろ、成果を強調しすぎることで制裁の維持が難しくし、北朝鮮に核・ミサイルの削減や放棄を求める圧力が一段と弱まる」との見方を示した。
トランプ氏のこうした不用意な言動が、北朝鮮の非核化に向けた米国の立場を弱め、北朝鮮との実務的な協議を行うポンぺオ氏らの交渉を難しくすると専門家は指摘する。
ブッシュ(子)元米政権で国家安全保障会議(NSC)アジア上級部長を務めたマイケル・グリーン戦略国際問題研究所(CSIS)日本部長は、トランプ氏が米韓軍事演習を中止する意向を示すなど北朝鮮に対する圧力が弱まることで、「ポンぺオ氏が北朝鮮に非核化を実現させるための交渉力が低下した」と指摘した。
ブルッキングズ研究所のジュン・パク上級研究員は、トランプ氏が「最大限の圧力ではなく、金正恩氏が策略を用いるための最大限の余地を与えている」とし、米国の実務担当者が北朝鮮の非核化を推進することを困難にさせるとの考えを示した。
専門家の多くは今回の首脳会談の結果について厳しい見方を示しているが、一方で国民の間ではおおむね好意的に受け止められている。ロイター通信が米朝会談後に実施した世論調査結果によると、米国民の51%がトランプ氏の北朝鮮政策を支持した。米朝関係の先行きは見通せないものの、事態の打開に向け一歩踏み出したこと自体は前向きに受け止められているようだ。
ポンぺオ氏は13日、訪問先の韓国で、北朝鮮の非核化の期限をトランプ氏の任期が終了するまでの2年半とする意向を示し、非核化が実現するまで制裁解除はしないと改めて強調。「(米朝会談の)合意文書に見られた以上に多くの作業は進められている」と述べ、北朝鮮の非核化に向け水面下で交渉が進展していることに手応えを示している。
ただ、北朝鮮が引き伸ばしを図るなど今後の交渉は容易でないことも予想される。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は12日、「北朝鮮はあらゆる段階で米国側の譲歩を強く要求するだろう。トランプ氏は対話にかじを切ったことで、正恩氏が席を立たないようさらなる譲歩をする圧力にさらされる」との見通しを示した。
(ワシントン・山崎洋介)