サンパウロ廃虚ビル火災、不法入居の住民が犠牲に
ブラジルで今月初めに発生した高層ビル火災は、現場で撮られた映像が衝撃的だったことに加え、長年放置されてきた廃虚ビルの危険性や大都市が抱える貧困問題を浮き彫りにした。(サンパウロ・綾村 悟)
背景に格差と貧困問題
経済成長の影で土地が高騰
ブラジル最大の都市サンパウロで今月1日未明、24階建てのビルで火災が発生、ブラジル全国紙によると、7日夜までに6人が死亡、47人が行方不明になっている。5階から発生した火災は瞬く間にビル全体に広がり、建物は1時間半後に崩壊した。ビルが火炎に包まれながら崩壊する映像は、テレビやSNSなどを通じ国内外を駆け巡った。
当該のビルは、連邦警察が2003年まで使用していたが、その後は空きビルになっており、本来なら火災で死者が出るはずがない。ところが、ビルには貧困家庭などが不法入居し、サンパウロのフォーリャ紙によると、150世帯、400人が住んでいた。
管理もされないまま放置されていたビルに対し、以前より近隣住民から安全性が問題視されていただけでなく、消防局の検査でも危険性が指摘されていたという。
消防当局によると、住民たちは廃ビルに住居区画を設けるため、多量の木材を搬入していた。この木材に火災が燃え広がり、それが1時間半という短時間でビル崩壊に至った原因とみられている。当局は火災原因について、家庭用プロパンガスの爆発等によるものだと見ている。
今回の事故で報道が最も集中したのが、ビルが崩壊する時の映像だ。テレビ各局は、火災に包まれたビルの外壁にしがみついていた男性に対し、救助隊員が隣のビルから手を伸ばした矢先に崩壊した映像を繰り返し報じたが、それはショッキングなものだった。
男性の救助に当たった隊員は、隣のビルの壁に手斧(ておの)で穴を開け、そこから男性に向けて救助ロープを投げたと説明、「あと30秒あれば助けられた」と悔しさをにじませた。
男性は崩壊したビルの住人の一人で、火災発生後にいったんは逃げたものの、逃げ遅れた住民を助けるために戻り、火に包まれて逃げ場を失った。
メディアでは、衝撃的な映像や行き場のない住民たちが近くの公園で寝泊まりする様子などが注目を集めたが、今回の事故の背景には、経済成長したブラジルが抱える負の部分がある。
サンパウロ市はブラジル最大の経済都市であり、平均給与は国内でも図抜けて高い。それ故に地方都市からサンパウロに出てくる人々が後を絶たない。だが、同市には深刻な貧富の格差が存在し、貧困家庭に対する支援が後手に回っているのが現状だ。
不法占拠された空きビルは、サンパウロ市の中心街だけで約70棟もあり、推定で3000~4000人が住んでいるとされる。
コバス市長は今回の事故後、すべての空きビルに対し消防局による立ち入り検査を行うと言明、安全基準を満たさない場合は退去勧告を出すとした。ただ、勧告を出しても住民を移住させるのは簡単ではない。住民たちは基本的に、「家のない労働者の運動(MTST)」や「住居のための闘争前線(FLM)」など社会運動を行う団体を通して空きビルに住み着いているためだ。
これらの団体は、ブラジルの土地無し農民運動(MST)に啓発されたものが多く、家や居住地を持たない人々が空き家や空きビルなどを占拠して、政府に対して住居の保証を求めている。
空きビルの占拠は、経済発展に取り残された人々への救済策の遅れや、経済成長の影で土地が投機対象となって高騰、大都市近郊に住居を構えることが難しくなった現状も反映しており、行政の対策が求められている。