コロンビア、完全和平に苦戦

 南米で最長の内戦と言われるコロンビア内戦。完全な和平実現に不可欠とされる第2の左翼ゲリラ勢力・民族解放軍(ELN)との交渉は、10日に起きたゲリラ側の攻撃によって中断されたままとなっている。
(サンパウロ・綾村 悟)

民族解放軍との交渉中断
投資に響く石油施設爆破

 一昨年の11月、中南米最大の左翼武装ゲリラ組織、コロンビア革命軍(FARC)と和平合意したコロンビア政府とサントス大統領は世界から称賛された。半世紀以上の内戦を実質的に終わらせ、サントス氏はノーベル平和賞を受賞する名誉にも恵まれた。FARCとの和平合意にはローマ法王の意向も強く反映されていたという。

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コロンビア民族解放軍(ELN)に人質にされた15人の解放をボゴダ空港で求める家族たち。ELNはアビアンカ航空の旅客機をハイジャックし乗客らを人質にした(1999年)(UPI)

 一方、ELNとの和平交渉は難航している。同国政府は、FARCとの和平実現の波に乗り、昨年2月にELNと初の和平交渉に着手した。それより以前の2016年3月にも交渉の機会があったが、政府側が条件としてELNが捕虜にした元国会議員や国軍兵士の解放を要求し、開始が遅れた。ELNは、誘拐をゲリラ活動の主な資金源とし、政府との交渉材料に利用してきたのだ。

 こうした中、昨年10月に3カ月の期限付きで和平に向けた一時停戦が実現。1月9日の期限を迎えるまで政府は停戦延長を呼び掛けていた。しかし、期限時刻を過ぎた10日未明、ELNは拠点を置いている北東部アラウカ県で石油パイプラインを爆破、また、海軍施設を襲撃して国軍兵士2人が負傷した。

 ELNが襲撃、の一報を受けたサントス大統領は強い憤りを表明。和平交渉が行われていたエクアドルの首都キトから交渉担当官を呼び戻すこと、交渉を即時中断することを発表した。

 グテレス国連事務総長などが交渉再開を呼び掛けているが、ELN側は、その後も石油会社の労働者を拉致するなどゲリラ戦をエスカレートさせており、めどは立っていない。もともと、ELN側の司令官が「(合意に向けた)期限付きの交渉などには興味がない」と言明していたこともあり、和平に至るまで長い時間がかかる可能性が指摘されていた。

 同国政府は、ELNに和平交渉に向けて接触していた昨年8月、FARCの武装解除が国連仲介の下で終了したことを受け、「内戦終結」を宣言している。コロンビア二大左翼ゲリラのうち、資金力と構成員数に図抜けたFARCとの和平実現は、実質的な内戦の終わりとみられてきたからだ。

 ELNはコロンビアの都市部をゲリラ活動の戦場とはしていない。規模も大きくはない。しかし、同組織の主張は、原油や鉱物など豊富な地下資源がもたらす富を公平に国民に分配することであり、海外資本による投資拡大に反対する立場を表明してきた。狙うのは油田や鉱山の施設だ。

 ELNのゲリラ活動は散発的で大規模なものではないが、パイプラインを爆破し、石油施設従業員の拉致を含めて施設をまひさせる。パイプライン破壊によってあふれた膨大な原油や企業の操業停止など、その経済的被害は大きなものになっている。

 FARCとの和平を実現したコロンビアでは、外資による投資ブームが期待されている。近年のゲリラ活動縮小と和平がもたらす治安の向上は、同国に安定的な経済成長をもたらし得るからだ。さらなる成長と投資促進のためには、石油施設の破壊を続けるELNとの和平合意は欠かせない。

 ただし、半世紀以上、800万人にも及ぶ犠牲者を出した内戦により、国民の間でゲリラに対する反発は根強い。FARCとの和平合意内容の承認を問う2017年の国民投票では、反対票が上回り一度は却下されている。政府とELNとの和平交渉の行方は、なお困難が予想されている。

 民族解放軍 武装構成員は組織公称4000人。1964年に親キューバ系の反政府武装勢力として設立。創設当初は、キューバ革命に影響を受けた学生や解放神学に傾倒したカトリック関係者らによって構成され、一部の地主に支配された土地の解放や富の再分配などを求めていた。同組織は、農村部を活動の中心としており、最盛期には5000人以上の武装構成員を抱えていた。現在は、政府によるゲリラ掃討作戦などを受けて縮小、実質的な構成員は2000人前後とみられる。