イラン核合意で前米政権に疑惑浮上
ヒズボラ麻薬取引の捜査妨害か
司法長官が調査を指示
イランとの核合意(2015年7月調印)を結んだオバマ前米政権が、同国との交渉の過程で、麻薬取締局(DEA)によるイラン系シーア派武装組織ヒズボラに対する捜査を妨害していた疑惑が浮上している。米紙の報道によるもので、前政権がイランとの関係改善を進める中で、同国が支援するヒズボラへの捜査を妨げていたとされる。共和党から疑惑解明を求める声が高まったことを受け、ジェフ・セッションズ司法長官が調査を指示した。(ワシントン・山崎洋介)
疑惑が浮上したのは先月18日、政治専門紙ポリティコが公表した調査報道記事がきっかけ。これによると、2008年ごろ、ヒズボラが「麻薬や武器販売、マネーロンダリング(資金洗浄)などで年間10億㌦を稼ぐとみられる国際的犯罪組織」に転換した証拠をDEAが得ていたという。そこで、このネットワークを解体する目的で捜査チームが立ち上げられた。
当時の関係者たちの証言によると、コカインの流れを追跡する中で、ヒズボラとイランとの共謀関係を示す証拠を得たという。しかし、捜査チームが重要人物や組織への起訴や逮捕、金融制裁への要請をした時、司法省や国務省、財務省が、拒否するか延期をするということを繰り返した。
当時の捜査チームの関係者は、これらの妨害はイランとの交渉を継続させるために「政治的判断として行われたものだ」と訴えている。
一方で、オバマ政権でイラン核合意に関与した安全保障担当の高官は匿名で、証拠が不十分だったり、他の情報機関の活動を妨げる可能性などの要因も考慮すべきだとし、政治的理由で捜査が妨害されたというのは臆測にすぎないとポリティコ紙に示唆した。
しかし、記事では、捜査チーム関係者以外の証言として、元財務省職員のキャサリン・バウアー氏が、昨年2月の下院外交委員会で「オバマ政権下では、(ヒズボラに関する)調査はイランとの核合意を危うくするとの懸念から、抑えつけられた」と証言した記録を紹介している。
また、元中央情報局(CIA)職員は、匿名で「イラン側の交渉担当者が早い段階からヒズボラへの圧力を抑えることを求めていて、オバマ政権はその要求に黙って従った」と語ったという。
記事によると、核合意が2016年1月に履行されてから数カ月以内に、捜査チームは消滅することになった。その結果、米国政府は、国際的な麻薬犯罪についてだけでなく、「ヒズボラとイラン、シリア、ベネズエラ、ロシアの高官たちとの共謀関係に対する洞察も失った」とされている。
この報道を受け、共和党議員から「もしオバマ政権がヒズボラとその仲間がコカインを米国に流入させ、テロリストに資金を与え、大量破壊兵器を持たせるのを止めるために議会が与えた権限を用いていなかったとしたら、とてつもない過ちだ」(ベン・サス上院議員)などとして検証を求める声が高まった。こうしたことから、セッションズ氏は調査を指示した。
このポリティコ報道については、保守系メディアが「説得力のある証拠が示されている」(ウォール・ストリート・ジャーナル紙)などと評価する一方、リベラル系メディアではこれまでのところあまり報じられていない。
これについて、ナショナル・レビュー誌は、CNNなどのリベラル系放送局やニューヨーク・タイムズ紙などが報道していないことを指摘。外国と共謀した疑いという点ではトランプ政権のロシア疑惑と共通していることから、「根拠のない推測しかない場合でも、ロシア疑惑の調査について絶え間なく報じていた主要メディアが、今回の報道を無視しているのは非常に奇妙なことだ」とその姿勢を批判した。






