米でオピオイド蔓延が深刻化

 米国でオピオイド系薬物の乱用が深刻化している。鎮痛剤として1990年代から多くの患者に処方されてきたが、長期間にわたって大量に服用したことで依存症に陥る人が続出。オピオイドを処方されなくなった後も違法な薬物に手を染める人が後を絶たず、大きな社会問題となっている。(ワシントン・岩城喜之)

トランプ氏「国家の非常事態」
過剰摂取の死者数、16年間で4倍に

 「オピオイドの蔓延(まんえん)は国家の非常事態だ」

 トランプ米大統領は8月10日、オピオイドの過剰摂取による死者が年々増加している現状に危機感をあらわにした。

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9月28日、オピオイドに関する会合で専門家や依存症に悩まされる患者の家族から意見を聞くトム・プライス厚生長官(当時、右から3人目)ら(UPI)

 米国立薬物乱用研究所(NIDA)の報告書によると、薬物の過剰摂取による死亡者数は1999年に1万6849人だったが、2015年には5万2404人まで増加。この間、オピオイド系薬物による死亡者は8048人から4倍以上の3万3091人まで膨れ上がり、薬物全体の63%を占めるまでになった。

 米疾病対策センター(CDC)によると、オピオイドの乱用で毎日1000人以上が緊急治療を受けている。中でもニューハンプシャー、マサチューセッツ、ウェストバージニア、オハイオなどの8州は死亡率が10万人当たり25人以上と高く、オピオイドの蔓延を経済問題や教育よりも深刻な社会問題と考える人が増えている。

 オピオイドが氾濫した原因は、関節炎などの疼痛(とうつう)を和らげるための鎮痛剤として医師が安易に処方してきたことが大きい。

 米国では1990年代末にオピオイドを処方する医師が急増。長期間にわたって大量に使用する患者が多くなったことから、2014年には正規に処方されたオピオイドだけでも約200万人が依存症に陥った。

 さらに処方されたオピオイドを他人に譲渡する人や、処方が終わった後もオピオイド系の違法薬物に手を染める人がおり、今では誰がどれだけ使用しているのか把握するのも難しくなっている。

 長期間使用すると中毒や過剰摂取による死亡のリスクが高まると医師や製薬会社が積極的に説明してこなかったことも依存症に陥る人が続出した原因と考えられている。

 このためオハイオやミシシッピなど約20州は、オピオイドの中毒性への説明が不十分だったとして製薬会社を提訴。このほかにも訴訟を検討している州があり、司法の判断に注目が集まっている。

 またオピオイドの蔓延は、過剰摂取による緊急通報や検視官への支払いが増え、死亡率の高い市や郡などの財政を圧迫するという問題も引き起こしている。

 トランプ大統領は「オバマ政権はオピオイドの問題に対して何の対策も取らなかった。トランプ政権はそうした過ちを繰り返さない」と述べ、本腰を入れて薬物対策に取り組む考えを示しているが、現在も有効な対策を見いだせておらず、オピオイドの蔓延は歯止めがかからない状態だ。