サッカー・ブラジル代表、「ミネイロンの惨劇」から復活

 サッカー日本代表は11月にブラジル代表との親善試合が予定されている。ブラジル代表は前回のワールドカップ(W杯)での大敗ショックから立ち直り、南米予選をどこよりも早く勝ち抜いた。近年にない充実ぶりを見せるブラジル代表との試合は、日本のサッカーファンにとっても見逃せない一戦だ。(サンパウロ・綾村 悟)

チッチ氏の監督就任が転機

 ブラジルは世界最多のW杯優勝回数を誇り、ペレやロナウドら世界に名だたるスター選手を輩出してきた「サッカー王国」だ。世界のサッカーファンをとりこにする欧州クラブも、ブラジル選手の存在抜きには語れない。また、日本のJリーグも黎明(れいめい)期から現在まで、ブラジルサッカーの恩恵を受けている。

チッチ監督

サッカー・ブラジル代表のチッチ監督(ブラジルサッカー協会<CBF>提供)

 だが、そのブラジル代表は、2002年日韓W杯での優勝を境に大きな活躍から遠ざかっている。14年ブラジルW杯では、自国開催のプレッシャーにつぶれそうになりながらも準決勝まで勝ち進んだが、ドイツ代表に1対7で大敗した。ドイツ代表との敗戦は、開催地ミネイロン競技場の名を取って「ミネイロンの惨劇」と呼ばれる。

 ブラジル代表はその後、リオ夏季五輪で金メダルを獲得したが、フル代表による国際試合では「コパ・ド・アメリカ」で予選敗退するなど精彩を欠いていた。

 ブラジルでは近年、経済成長で中産階級が増え、「貧困からサッカーでのし上がる」といった成功物語が少なくなった。さらに、欧州向けの選手を育成するサッカースクールがブラジルで盛んになり、サッカーを大きなビジネスと捉える傾向が出てきた。

 欧州クラブへの「輸出」を前提としたフィジカルトレーニングや戦術をたたき込むサッカースクールの様子は、ブラジル大手誌などでも「金の卵を排出するサッカービジネス」として特集が組まれ、中産階級の多くの若者たちが欧州を目指した。

 一方、前ブラジルサッカー協会会長が汚職で逮捕されるなど、サッカー界を取り巻く状況は深刻なものになっていた。

 低迷するブラジル代表に対する「創造的な美しいサッカーを失った」との見方を一変させたのが、コリンチャンス(サンパウロ)を世界王者にまで成長させた「チッチ」ことアデノール・レオナルド・バッチ氏の代表監督就任だ。

 チッチ氏は守備を固めてカウンター攻撃を多用する前任者のスタイルを一変、昔からのブラジル代表が得意とした、技術とスピード、創造性を存分に生かした攻撃的なサッカーを取り入れた。また、選手たちに組織的な連動を求め、組織力の点では過去のブラジル代表の中でも異色と言ってよいほど成功を収めている。

 さらには、格下とされる中国のクラブからパウリーニョ選手を招集、その他にも知名度の高くない若手を抜擢(ばってき)するなど、過去のしがらみにとらわれない選手起用を成功させた。選手層の厚みが増したことで、ネイマール頼みと言われたブラジルW杯当時とは大きく変わりつつある。

 チッチ監督就任後、ブラジル代表は南米予選で9連勝を重ね、アルゼンチンやコロンビアなど強豪がそろう南米枠でどこよりも早く予選通過を決めた。

 一方、11月にはフランスのリールでブラジル代表と日本代表の親善試合が予定されている。実は、2014年のW杯後、チッチ氏に日本代表監督への就任要請があったという(ブラジル紙掲載インタビュー)。チッチ氏はブラジル代表監督への指名を待つために日本からのオファーを断ったが、監督にはドゥンガ氏が指名された経緯がある。