懸念される武器の流出、政情不安続くベネズエラ

 政情不安が続く南米ベネズエラでは、さらなる国内分裂の恐れとともに、周辺地域への武器流出という問題が懸念されつつある。(サンパウロ・綾村 悟)

携帯型ミサイルや小火器など
地域の安定脅かす恐れ

 南米の北端に位置するベネズエラは、南米最大の産油国で石油輸出国機構(OPEC)の主要加盟国でもある。2013年には、原油確認埋蔵量で中東最大の産油国サウジアラビアを抜き、世界一の座を獲得した。世界の抽出可能な原油全体量の実に17・7%がベネズエラにあるという。さらには、金や鉄鉱石、ダイヤモンドの鉱山もあり、まさに資源の宝庫だ。

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1日、ベネズエラの首都カラカスで、治安部隊に催涙ガス弾を投げ返すデモ隊員(AFP=時事)

 故チャベス大統領時代(1999~2013年)のベネズエラは、貧困層を中心とした各種の社会保障プログラムやキューバなど近隣諸国への支援など、豊富な原油と外貨で国内外に強い影響力を及ぼしていた。

 しかし、現在のベネズエラは、2014年から続く原油価格低迷や財政政策の失敗により、崩壊の危機に瀕(ひん)している。食料品や医薬品など日用品の慢性的不足により、暴動や略奪が頻発。コロンビアやブラジルなどの隣国は、押し寄せるベネズエラからの難民に苦慮している。

 反米左派マドゥロ政権寄りの最高裁が、野党主導の国会から立法権を取り上げようとしたことに端を発した反政府デモは、まずます激しさを増しており、デモ絡みの死者も40人を超えた。

 米州機構(OAS)や国連なども、ベネズエラの政情不安に懸念を示す一方、治安問題の専門家からは、同国からの武器流出が地域の安定に影響を及ぼす可能性が指摘されている。

 ベネズエラは故チャベス大統領の時代、豊富なオイルマネーで大量の武器をロシアから購入してきた。武器は攻撃ヘリや戦車に始まり、携行型ミサイルや数万丁もの自動小銃にまで及んできた。

 流出が懸念されているのは、この中でも比較的小型で持ち出しやすいとされる、携行型ミサイルや小火器などだ。

 現状では、ベネズエラに軍事クーデターや反大統領派による武装化を含めた内戦が起きる可能性は少ない。ただし、現在進行形とも言えるベネズエラの経済崩壊は、国軍の規律を緩ませ、兵器の横流しなどにもつながりかねないとの懸念を呼んでいる。

 また、反大統領派のデモ拡大と過激化に伴い、マドゥロ政権は、大統領支持派の民兵たちに小銃などの小火器を与え、それによって治安強化を図ろうとしていることも伝えられている。

 現在でも、ベネズエラは凶悪犯罪や殺人の発生率で世界最悪とも言われる数字を記録しており、小火器や手榴弾(りゅうだん)等はブラックマーケットでいつでも手に入るほど。警官や底辺の軍人たちによる銃器の横流しも横行しているという。

 これまでにも、隣国ブラジルやコロンビア政府は、ベネズエラから流出した武器が反政府ゲリラや犯罪組織に利用されていると主張してきた経緯がある。

 最近では、米上院の公聴会で、中央情報局(CIA)長官が「現在のところ、携行型ミサイルなど(安全保障上の脅威となる武器)の流出は確認されていないが、今後、ベネズエラの情勢が悪化することによる武器流出の可能性が憂慮される」と発言。その後もロイター通信など欧米メディアが、ベネズエラに最新型の携行型ミサイルが最大5000発近く存在することを報じた。

 近年の紛争では、イラク戦争やシリアの内戦などで多数の固定翼機やヘリコプターなどが携行型ミサイルで撃墜されている。中南米諸国が多く採用しているCOIN機(対ゲリラ戦などに用いられる軽攻撃機の一種)や密林内での作戦に多く用いられる多用途ヘリコプターなどは、携行型ミサイルの犠牲になりやすいだけに、ベネズエラ情勢の悪化は地域の安全保障に新たな課題を突き付けている。