トランプ次期大統領、教員組合に宣戦布告

教育長官に改革の「闘士」

 トランプ次期米大統領が密(ひそ)かに意欲を燃やすのが教育改革だ。改革に抵抗する教員組合にはかねて批判的で、教育長官には「スクールチョイス(学校選択)」を推進する活動に取り組み、教員組合と全面対決してきた人物を起用。教員組合に宣戦布告した格好だ。(ワシントン・早川俊行)

学校間に競争原理導入

 トランプ氏は選挙公約でスクールチョイス推進を教育政策の柱に据えたが、これは住んでいる場所や収入に関係なく、保護者は子供の通う学校を選べるようにするというものだ。学校間に競争原理を持ち込むことで教育の質を向上させる考え方は、ビジネスマンとしての長年の持論でもある。

800

トランプ次期米大統領(中央)が教育長官への起用を決めたベッツィ・デボス氏(左)(UPI)

 トランプ氏は2000年に出版した著書で「(教育に)競争を持ち込まなければならない。校舎の扉を開け、子供に最善の学校を親に選ばせるのだ」と主張。教育に競争がないのは「極めて高い組合の壁に囲まれている」からだと、教員組合を抵抗勢力として厳しく非難している。

 教育政策は大統領選で注目されなかったが、教育改革に対するトランプ氏の本気度を示したのが教育長官の人選だ。トランプ氏が長官に指名したベッツィ・デボス氏は、スクールチョイス運動の「闘士」と称される人物である。

 デボス氏は元アムウェイ社長の夫と共に、1990年代から地元ミシガン州で、保護者や教員らが主体となって運営する公立校「チャータースクール」を推進してきた。デトロイト・ニュース紙のイングリッド・ジャックス論説欄副エディターによると、同州ではデボス氏の尽力により「教員組合の制約のない新たな公立校が発展し、特にデトロイト市では生徒の半数以上がチャータースクールに通っている」という。

 デボス氏はスクールチョイス運動を全米で展開するため、2010年に「米国児童連盟」という団体を設立。今年の地方選挙で同連盟が支援したスクールチョイス推進派候補は121人中108人が当選し、特に、フロリダ州では21戦20勝だった。同州では、教員組合が多額の資金を投じて反対派候補を支援したにもかかわらずだ。

 デボス氏の教育長官起用が、保守勢力から「これ以上の人選は困難」(保守系誌ナショナル・レビュー)と高い評価を受けるのは、同氏が口先だけで改革を訴えるただの教育評論家ではなく、実際に教員組合と戦い、成果を挙げてきた実績の持ち主だからだ。

 教育政策シンクタンク「トーマス・B・フォーダム研究所」のマイケル・ペトリリ所長は、デボス氏について「論文や政策文書では教育組合を倒すことはできないことを理解する教育改革の第一人者の一人だ」と指摘。デボス氏起用はトランプ氏が教育改革に「真剣」であることを示すものだと解説する。

 一方、スクールチョイス拡大で既得権益を失うことを恐れる教員組合は、デボス氏起用に猛反発しており、「米国教員連盟」のランディ・ウェインガーテン会長は「教育省の設立以来、最もイデオロギー色の強い反公教育の長官候補だ」と批判した。

 トランプ氏の対決的な姿勢は、超党派の取り組みを妨げるとの見方もあるが、デトロイト・ニュース紙のジャックス氏は「教員組合にとって悪いことは、生徒たちにとって良いことだ」と、デボス氏の手腕に期待を寄せている。