「ウクライナは兄弟国家」を強調 プーチン大統領が大規模な内外記者会見

メディア統制強化の質問は一つ

 ロシアのプーチン大統領は19日、9回目となる大規模な内外記者会見を行った。会見では、欧州連合(EU)加盟問題で揺れるウクライナについての質問が目立ち、プーチン大統領は「ウクライナは兄弟国家だ」として、同国への経済支援の必要性を強調した。一方で、野党勢力、言論の自由についての質問はわずか各々一つにとどまった。
(モスクワ支局)

 地方記者は石炭不足を「直訴」

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19日、モスクワで記者会見するプーチン・ロシア大統領(AFP=時事)

 毎年恒例のプーチン大統領の内外記者会見。今年の会場となったモスクワのワールドトレードセンターには、約1300人の内外記者が詰め掛けた。

 プーチン大統領は約4時間にわたり70以上の質問に答えた。前回の内外記者会見では、対米国際養子縁組禁止法についてなど、「ロシア社会で大きな反響を呼んだ」質問などが注目を浴びた。

 一方、今回の会見で目立ったのは先月21日、EU加盟への第一歩となる「連合協定」の締結を中止したウクライナについての質問だった。今年メディアを騒がしたのは、更迭されたセルジュコフ元国防相にまつわる汚職問題やモスクワなどで悪化する民族間対立などだが、誰もそれらの問題について質問しなかった。

 また、一昨年末の「反プーチンデモ」で一躍「時の人」となり、今年9月のモスクワ市長選出馬や横領罪での有罪判決などで注目された反政権ブロガー、ナヴァリヌィ氏についての質問はただ一つのみ。

 プーチン大統領が国営ロシア通信を解体し、後継組織として「ロシア・セボードニャ(ロシアの今日)」を創設することを突然決定し、政府によるメディア統制の一層の強化が懸念されているが、このメディア統制強化に関する質問も、わずか一つだった。

 EU加盟要求デモが拡大するウクライナについては、「ウクライナが欧州の方を向かないようにするために、ロシアはどれだけ払う用意があるのか」との質問が出された。プーチン大統領はウクライナのヤヌコビッチ大統領との首脳会談で、150億㌦の金融支援を決定している。

 プーチン大統領はこれに対し、ウクライナを「兄弟国」と呼び、同じスラブ民族国家を経済危機から救うためだとその意義を強調。金融支援そのものはEU接近阻止とは関係がないとしたが、同時に、ウクライナがロシアとの関係を維持することが最も好ましい選択だと指摘した。

 一方、ロシアの地方在住の記者らからは、警察による権力乱用、工場の給与遅配、暖房用石炭不足の解決を求める、質問ならぬ「直訴」に近い訴えが相次いだ。プーチン大統領はそれぞれ、検事総局の調査グループの派遣、工場経営者への指導と給与遅配の解消、石炭の供給を約束し、それぞれの地方記者を満足させた。

 実際、記者が石炭不足を訴えたシベリアの町セレギンスクはマイナス30度の酷寒の中、暖房用の石炭が3日分しか残っていなかった。1万5000人の住人の多くは石炭を求める抗議デモを行う予定だったが、内外記者会見の翌日、町には十分な石炭が届けられた。

 今回の内外記者会見には1300人の記者が参加登録したが、実際に質問することができたのは70人ほど。もし、今回質問した地方記者らが質問者に選ばれていなかったら、これらの問題は解決されず、セレギンスクの住民は酷寒の中で暖を取ることができない事態となっていたかもしれない。

 本来ならば地方政府が行うべき課題が大統領の内外記者会見で提起され、大統領がいちいちその解決を指示すること自体が、ロシアの地方政治が深刻な機能不全に陥っていることを示している。