ロシア、6年ぶりマイナス成長 ウクライナ危機で戦略的袋小路

中国の専門家が今世紀最大の困難予想

 世界的な原油価格下落により低迷するロシア経済に、欧米などが科す対露経済制裁が追い打ちを掛けている。ロシアの2015年の国内総生産(GDP)の伸び率はマイナス3・7%で、6年ぶりのマイナス成長となった。原油価格が高値で推移していた時期に、原油輸出の利益の一部を積み立ててきた「準備基金」の取り崩しを余儀なくされており、虎の子ともいえる同基金が今年中にも枯渇する恐れが出ている。
(モスクワ支局)

準備基金も枯渇の恐れ

プーチン大統領

ロシアのプーチン大統領=12月17日、モスクワ(AFP=時事)

 ロシアのメドベージェフ首相が訪中を終えた直後の昨年12月17日、中国の新華社通信が、次のような記事を配信した。「困難な危機に直面するロシアは、その試練を乗り越えられるか」

 記事の一部を引用する。「ロシアが困難な時期に直面している。原油収入は以前も現在も、ロシア経済の重要な位置を占めている。しかし、最も深刻な課題はそれではない。2014年から15年にかけてのロシアの経済危機の最大の要因は、2012年には始まっていた経済構造の問題だ。地政学的な緊張の中で、ロシアへの投資が減少しただけでなく、ロシアの銀行や企業の外貨建て資金調達コストが高騰した。ロシアの通貨ルーブルは昨年、対ドルで72・2%、対ユーロで51・7%下落した。これがインフレを招き、国民の実質所得を低下させ、消費需要が減少した――」

 ロシア経済について、欧米のメディアだけでなく、ロシアのメディア・専門家も厳しい評価・分析を行っている。しかし、そのような中でも、中国のメディアによる分析は控えめだった。ロシアと中国が蜜月関係を演出する中で、公式的には「中国とロシアは永遠の兄弟」である。国民をなだめようとするロシア政府が出す楽観的な分析に、中国のメディアも同意する形を続けていた。

 しかし、中国もさすがに、楽観的な論調を続けることは困難と判断したのだろう。新華社通信は先の記事に、中国現代国際関係研究院ロシア研究所の馮玉軍(フェン・ユジュン)所長の、次のようなコメントを付け加えた。「ウクライナ危機によりロシアは、今世紀に入って最も困難な戦略的袋小路にはまった」

 クレムリンに近い専門家らは、この中国の「裏切り」に激怒した。しかし、ロシアの専門家らも当然ながら状況は把握しており、これまでも「ロシアの経済問題と、準備が不十分だった外交政策の間には関連がある」と、政府の顔色をうかがいながらオブラートに包んだ表現で示していた。

 国際通貨基金は1月19日、2016年の世界経済成長率予測を、3・6%から3・4%に下方修正した。米国経済についても、成長率予測を2・8%から、2・6%に変更した。

 これら経済成長率予測の下方修正の理由は、中国経済の減速である。中国国家統計局が19日に発表した昨年の実質GDP成長率は6・9%で、25年ぶりの低水準に減速した。

 この中国経済の減速に頭を抱えているのがロシアである。中国はロシアにとって、極めて重要なエネルギー輸出先だが、その需要がさらに減退する。一方で中国はロシアに多くの投資をしており、中国の景気後退はその投資を先細りさせることになる。

 さらに、景気後退に陥った中国が、輸出拡大に活路を見いだそうとすれば、エネルギーを除くロシアの重要な輸出品目である原発や武器で、ロシアと競合する形となる。

 クレムリンに近いメディアや専門家らは、経済危機は必ずしも悲劇ではなく、国民を団結させ、次なる成長の刺激ともなる、と説明する。しかし、ロシアの庶民の生活が日に日に苦しくなっていることに違いはない。

 ロシアの昨年のGDP成長率は、前年比マイナス3・7%で、リーマンショックに影響された2009年以来6年ぶりのマイナス成長となった。ロシアの富裕層と中間層は同年、それぞれ25%、46%減少し、一方で低所得層は8%増加、貧困ライン以下となる層は28%の増加を示した。ロシアの一部の地方では公務員給与の遅配が始まっており、庶民の生活はさらに苦しさを増している。

 ルーブルの為替レートは20日、一時1㌦=81ルーブル台まで下落し、2014年末の相場を下回って過去最安値となった。原油価格も1バレル当たり30㌦を割り込んだ。シルアノフ財務相によれば、原油価格が1バレル当たり82㌦で財政が均衡する。

 ロシアの2016年度予算は、原油価格1バレル当たり50㌦を想定して策定した。しかし、原油価格が現在の水準に留まれば、財政赤字は大きく膨らみ、ロシアの虎の子ともいえる準備基金が今年中にも枯渇する恐れが出ている。準備基金の残高は昨年末で500億米㌦まで減少し、前年末比で40%縮小した。

 準備基金の枯渇を避けるには歳出削減に踏み切るしかないが、それはロシアの景気をさらに冷やすことになる。依然としてプーチン大統領の支持率は高いものの、経済悪化は政権の足元を揺るがしかねない。