ロシア爆撃機撃墜事件、露・トルコが非難の応酬
トルコ領空を侵犯したとされるロシア軍の爆撃機が11月24日、トルコ軍の戦闘機に撃墜されたことを受け、ロシアのプーチン大統領は28日、トルコに経済制裁を科す大統領令に署名した。プーチン大統領は、撃墜はトルコが過激派組織「イスラム国(IS)」から石油を密輸するルートを守るために意図的に行ったと激しく批判。これを否定するトルコとの間で非難の応酬が続いている。(モスクワ支局)
1年前の蜜月関係霧消
経済制裁発動は露にも大きな打撃
IS掃討名目でシリア空爆を続けるロシアのスホイ24爆撃機が、トルコ軍の戦闘機F16に撃墜された。パラシュートで脱出した乗員2人のうち、1人は地上からの銃撃で死亡。乗員の救出に向かったロシア軍のヘリも地上からの攻撃を受け、ヘリの乗員1人が死亡した。
ソ連崩壊後で、ロシアと北大西洋条約機構(NATO)加盟国間で発生した最も重大な事件となる。プーチン大統領は「(対テロ戦の)裏切り行為」「テロリストの共犯者」「背中を刺されたようなものだ」などと最大限の表現でトルコを非難し謝罪を要求。さらに、トルコがISから石油を購入することで資金面で支援していると主張し、厳しく批判した。
トルコは、ロシアの爆撃機が領空侵犯したとしているが、ロシア側は「シリア領空を侵犯したのはトルコ軍機」と逆に批判。対空ミサイルでシリアの防空体制を強化すると警告した。
さらにプーチン大統領は28日、トルコに経済制裁を科す大統領令に署名した。2011年から適用されている両国間の査証免除協定を来年1月1日に停止するほか、ロシア国内でのトルコ人労働者の新規雇用も同日から禁止とする内容だ。
また、トルコへのチャーター便運航を禁じた上で、旅行会社にトルコ向けツアーの取り扱い自粛を求める。トルコの陸運・海運会社への規制も強化する。そして、トルコからの特定品目の輸入禁止・制限の措置を近く発動する。
トルコにとってロシアはドイツに次ぐ2番目の輸出先であり、経済制裁は大きな打撃となる。ロシアの謝罪要求に対しトルコのエルドアン大統領は、「謝罪すべきは領空侵犯した者だ」と拒否しているものの、「国籍不明機を撃墜した」「事件は遺憾だ」とも語り、事態を沈静化しようと試みた。
だが、ロシアは批判をさらにエスカレートさせた。プーチン大統領は30日、訪問先のパリで記者会見し、トルコがロシアの爆撃機を撃墜したのは、ISの支配地域からトルコへ石油を密輸する経路を守るためだったと指摘したのだ。プーチン大統領は「トルコ領へ石油を送るルートを守るため、我々の飛行機の撃墜が決定されたと考えるさまざまな根拠がある」として、撃墜は意図的だったと激しく批判した。
エルドアン大統領はこれを真っ向から否定し「もし、それが事実だと証明されれば辞任する」と語り、もし主張が事実でなければ、逆にプーチン大統領が辞任すべきだと付け加えた。両国関係のさらなる悪化は不可避の情勢だ。
ロシアがシリアのアサド大統領を支援する一方で、トルコは同大統領の退陣を強硬に求めている。ロシアは、撃墜事件を最大限に利用しトルコの立場を弱め、シリア和平でロシアに有利な流れを作る、との思惑があるとみられる。
しかし、トルコをたたくことは、ウクライナ問題を受けた欧米などの対露経済制裁で孤立するロシアにとって、大きなダメージだ。トルコは対露経済制裁に加わっていない。ロシアが編入したウクライナのクリミア半島では、ウクライナ側からの物資の供給が途絶え市民生活に支障が出ているが、このクリミア半島に食料、特に野菜などを供給しているのがトルコだ。
ちょうど1年前となる2014年12月1日、プーチン大統領はトルコを訪問した。ロシアのメディアが「歴史的訪問」と書き立てた同訪問でプーチン大統領は、「われわれのパートナーであるトルコの人々は、他国の政治的野心のために自らの利益を犠牲にしなかった」と述べ、対露制裁に加わらなかったトルコを称賛。この訪問でロシアとトルコは、ウクライナを迂回し黒海経由でトルコ、そして南欧にロシア産天然ガスを供給するパイプラインの建設で合意した。
トルコはロシアの天然ガス輸出で、ドイツに次ぐ第2の顧客。しかし、ロシアは今回の撃墜事件を受け、同パイプラインの建設計画を取りやめると表明した。経済制裁で疲弊するロシアにとって、その影響は小さくない。ロシアの著名な軍事評論家パーヴェル・フェリゲンガウエル氏は「感情を抑え、トルコのナイフを背中から抜き、和解すべきだ」と語っている。