経済危機に直面するロシア
「クリミア編入で生活悪化」
世論調査で7割が回答
ロシア経済が泥沼に陥りつつある。原油安や資源価格の低迷による輸出減に、ウクライナ問題を受けた欧米による経済制裁が追い打ちをかけている。物価上昇と実質賃金の減少で国民生活に影響が出る中、世論調査では「クリミア編入が生活悪化の原因」とする回答が69%を占めた。もっとも、国民の間では、生活の悪化を「外国の陰謀」とする見方が強く、議会では排外的な政策への言及が増えている。(モスクワ支局)
「外国の陰謀」との見方も
「ロシアは本格的な経済危機に瀕している――」。ロシア経済の現状と見通しについてクドリン元財務相は上院で3日、はっきりとこう指摘した。
クドリン元財務相によると、ウクライナ東部の紛争と、ウクライナ問題を受けた欧米による経済制裁で、ロシアの今年の実質国内総生産(GDP)は1・5%減少。ロシアの主要輸出品である原油と地下資源の価格低迷でGDPはさらに1・5%減少。加えて、資源輸出に頼り、技術革新をなおざりにしてきたロシアの経済モデルの行き詰まりによりGDPは1%減少。
クドリン氏はこれらを合計し、2015年のロシアのGDPは4%減少すると予測した。
これに異を唱えたのはウリュカエフ経済発展相。ロシアは2015年第2四半期にGDPが3%減少するが、第3四半期には底を打ち、第4四半期には回復期に入ると指摘。結果的に2015年のGDPは2・8%減と予測した。
一方、ナビウリナ中銀総裁は4日、「現時点での指標は経済専門家らの予測よりも良いが、危機の打開について話すのは時期尚早」として、経済悪化のリスクは若干減少したものの、依然として厳しい状態が続いているとの認識を示した。
国民生活を見るとその厳しさが分かる。2015年1月の実質賃金は前年同期比マイナス10・2%。2015年4月の実質賃金は同マイナス13・2%を記録した。年金はこの時期、約10%増額されたが、物価上昇に追いついておらず、実収入は減少した。
住宅サービス関連の公共料金は今年7月1日から平均30%の引き上げが予定されているが、すでに、公式な告知がない値上げが毎月のように行われている。輸入品だけでなく、国産の食品も値上げが続き、国民の不満が高まっている。
ロシア科学アカデミー社会学研究所が4月に行った世論調査では、回答者の69%が「クリミア編入が国民生活悪化の原因」と回答した。もっとも、その不満は、クリミア編入を実行したプーチン政権に向けられているわけではない。ウクライナ政変は「外国の陰謀」によって引き起こされたと見るロシア人は多い。彼らは、ロシアの経済悪化の直接の原因である原油安や、ウクライナ問題とこれを受けた経済制裁は、「外国の陰謀」であると考えている。
どちらにせよ、経済の悪化を国民は肌で感じており、「生活が苦しくなった」との回答は昨年秋には22%だったが、4月には46%に達した。
興味深いのはロシアの、「世論調査基金」が4月末に、クリミアの住民を対象に行った世論調査だ。「もしクリミアのロシア編入を問う住民投票が今(2015年4月下旬)に行われたならば」との設問に、58%が「ウクライナ残留を希望する」と回答した。回答者の10%が「安い給料」に、18%が「物価高騰」に不満を示した。さらに19%は「(ロシアに対する)抗議行動に参加する準備がある」と回答した。特に、ロシアの軍港があるセバストポリの住民に限れば、回答者の30%が「抗議行動に参加する準備がある」と答えた。
国民の間に不満が高まる中、プーチン政権はこれら問題から国民の目を逸らせようと躍起だ。
国営もしくは政府系企業の傘下にあるロシアの3大全国ネットテレビでは、さまざまな専門家が出演するトークショーがよく放映される。トークショーの切り口はさまざまだが、その内容を要約すると、「いかにウクライナの政治が腐敗し国民が苦しみ、逆に、困難な状況のなかでどれだけロシアの政治が努力しているのか」というものだ。
一方、議会では「外国の陰謀」に対抗するための、排外的な政策への言及が増えている。クリミア編入を強く支持する与党「統一ロシア」のヤロヴァヤ下院安全保障委員会委員長は、学校での外国語授業を禁止することを提案した。ヤロヴァヤ委員長は「外国語の知識はロシア人の愛国心を減少させる」と主張している。






