ロシア政府、愛国教育を強化

「親欧米革命」未然防止が狙い

学校のスポーツ教育に軍が関与

2020年までに入隊希望者10%増へ

 ロシアのプーチン政権は、国民に対する愛国教育の強化を進めている。教育科学省が作成した「ロシア市民愛国教育」に関する新たなプログラムでは、2020年までの5年間で「祖国を誇りに思う」ロシア市民を8%増加させ、軍への入隊希望者を10%増やすとの目標が掲げられた。外国勢力がロシアの社会問題を利用し、ロシアを政治的に不安定化させる試みを防ぐことなどが、同プログラムの目的だ。
(モスクワ支局)

500

3月16日、サンクトペテルブルクで行われたアタムバエフ・キルギス大統領との会談で、笑顔を見せるロシアのプーチン大統領(AFP時事)

 米国のタイム誌が13日、独自のオンライン投票で選定した「世界で最も影響力のある人物」ランキングを発表した。第1位はロシアのプーチン大統領で、得票率は6・95%。第2位は韓国アイドルグループ2NE1のリーダーCLさん(同6・90%)だった。

 政治家に絞ると、米オバマ大統領が第11位(同1・4%)、独メルケル首相が25位(同0・9%)。「プーチン大統領は自らの勝利について知っていますか」との記者会見での質問に、ロシアのペスコフ大統領報道官は明確な返事をしなかった。だが、ロシアのほぼすべてのマスコミは、プーチン大統領の“勝利”を誇らしく伝え、愛国心の高揚に一役買っていた。

 ロシアがウクライナのクリミアを編入したことで、ロシア人の愛国心は激しく鼓舞された。かつての超大国ソ連は崩壊し、東欧の旧衛星国家は欧州連合(EU)の一員となった。敗北感と無力感を心のどこかで抱いていた多くのロシア人にとって、1954年までロシア(共和国)の一部だったクリミアの編入は、溜飲を下げる出来事だった。

 ウクライナ危機を受け、欧米が対露経済制裁を発動したことで、物価上昇などロシアの市民生活にも影響が出始めた。しかしそれでもプーチン大統領の支持率は8割を超え、依然として高い水準を保っている。ウクライナ危機の背景には英米の企図があると考えるロシア人にとって、経済制裁に立ち向かうプーチン政権を支えることは、ごく自然な流れである。

 一方でロシア政府は、2004年にウクライナで起こったオレンジ革命を契機に、同様な親欧米革命がロシアで発生することを未然に防ぐため、さまざまな方策を打ち出してきた。それはマスコミ統制や外国の非政府組織(NGO)の活動制限に加え、ロシア市民に対する愛国教育の強化だ。

 ロシア政府は2010年10月、愛国教育プログラム2011~2015を決定し、学生や児童に対する愛国教育を拡充してきた。これをさらに強化した5カ年計画として現在、愛国教育プログラム2015~2020の策定を進めている。

 今回の5カ年計画は「現在の複雑な地政学的情勢」の下で「世界的な対立が急激に高まる」中で、「(ロシアの)国内政治情勢を不安定化するため社会経済的な問題を利用する試みがなされている」として、愛国教育コンセプトの見直しが必須であると明記。愛国教育の目標として「ロシアの国益に沿うよう、市民の世界観と価値観を変化させる」「祖国の国益のために献身する」市民を育成することを掲げた。

 また、愛国教育を就学前教育(幼稚園・保育園)から始めるべきであるとし、家庭、学校、軍、文化施設、公務員などのグループごとに、それに適したプログラムを実施するとしている。

 この5カ年計画で特徴的なのは、愛国教育の結果に対する数値目標が設定されたことだ。「自国を誇りに思う」ロシア人の割合を8%増加させることを目標とする。ちなみに、どのようにして「愛国心」の度合いを測るのかは明記されていない。

 目標達成のため、愛国教育を行う教師を2倍にし、ロシアの基本的な歴史、文学、地理、文化に関する知識を十分に有する市民を50%増加させる計画だ。

 一方、軍への入隊希望者を10%増やすことも目標とした。軍から学校に派遣する教官を3倍に増やし、特に、体育教育に力を入れる。また、軍隊で役に立つ種類のスポーツ(格闘技等)のスポーツ大会を軍が開催するほか、これらのスポーツで優秀な成績を収めた者を、大学受験や、就職で優遇するとした。これはソ連時代と同様の制度となる。

 もっとも、一部の政治学者らによると、プーチン大統領がしばらく前から、学校教育への軍の関与拡大に消極的な姿勢に転じる兆しを見せているという。また、セルゲイ・グラジエフ大統領顧問らが唱える経済への国家管理拡大にも距離を置いているとされる。現在策定中の「愛国教育プログラム」は16日まで政府ポータルで公開し、その後、正式決定にかけられる。一部政治学者や野党勢力はこのプログラムを「ソ連時代への回帰だ」と批判しており、プーチン大統領の判断に期待をかけている。