ヒズボラが警告 米・イランが戦争なら最初にイスラエル攻撃

 米国とイランの関係が緊迫化する中、レバノンのイラン系イスラム教シーア派武装組織「ヒズボラ(神の党)」の最高指導者ナスララ師は12日、「米国とイランとの間で戦争が勃発すれば、イランは最初にイスラエルを容赦なく攻撃するだろう」と警告した。イスラエルはヒズボラのミサイル攻撃などに備え、国内の要衝の防護強化に向けて動き始めた。(エルサレム・森田貴裕)

戦略的要衝で防護強化

 報道によると、イスラエル軍は全国20カ所の戦略的要衝に防空システムを配備するとともに、ヒズボラのミサイル攻撃に備えて、強化型の航空機格納庫を追加して建設するという。空軍基地には、約4000平方㍍の耐爆格納庫が多数建設される。1棟当たりの建設費は1000万㌦。

ネタニヤフ首相

7日、エルサレムで、閣議に臨むイスラエルのネタニヤフ首相(AFP時事)

 さらに、イスラエル民間防衛軍(ホームフロント・コマンド)は、全国各地の重要拠点の防護を強化するとしている。ホームフロント・コマンドは、戦闘行為を目的とした組織ではなく、軍の後方支援活動、テロ攻撃や暴動からの市民生活の防護、災害救助活動などを行う組織だ。

 イスラエル軍は、北部国境での次の戦争は、レバノンとシリアの両国を含む北部国境全体に広がると予測している。また、戦争の間、ヒズボラの戦闘員がイスラエルの民間人と兵士を狙い本国へ侵入してくることが推測される。これまでにも北部方面でイスラエル軍は、ヒズボラの攻撃を想定した大規模な軍事訓練を行ってきた。

 ヒズボラは、米国をはじめ主要欧州国や日本などからテロ組織と見なされ、1975年から90年まで続いたレバノン内戦の後、武装解除していない唯一の政治組織だ。92年以降はレバノン国内で合法政党として政治活動を行っており、昨年に議会で13議席を獲得し、現在の内閣に三つのポストを確保している。

 2006年夏の第2次レバノン戦争を最後にイスラエルとの戦闘を終えたヒズボラは、それまでのゲリラ組織から軍隊へと変貌を遂げた。精密誘導ミサイルは保有していないとみられるが、過去13年間で兵器格納施設を再建し、その勢力を大幅に拡大した。何十万発もの短距離ロケットと数千発のミサイルを保有し、イスラエルの深部まで射程内に収めているとされる。

 ナスララ師は、数千発の最新式ミサイルでイスラエルの主要都市を攻撃できると豪語してきた。12日には、ヒズボラ系列のテレビ局アルマナルのインタビューで「ネタニヤからアシュドッドまでの海岸70㌔は射程内にある」と述べ、イスラエルへの攻撃能力の向上を強調した。

 ナスララ師はイスラエルの地図を用い、ターゲットのリストとしてテルアビブのイスラエル国防軍本部、ベングリオン国際空港、ディモナの原子力施設、ハデラの発電所、石油化学工場、軍需産業施設、アシュドッドの淡水化プラントなどを指し示し説明した。加えて最新の武器で武装しシリアの内戦で得た戦闘経験を持つヒズボラの精鋭部隊や無人航空機部隊などにも言及し、「2006年のイスラエルとの戦争よりも大きくなり、イスラエルは絶滅の危機に瀕(ひん)するだろう」と警告した。

 イスラエルのネタニヤフ首相は14日の閣僚会議で、「もし、ヒズボラがイスラエルを攻撃するなら、われわれはレバノンに壊滅的な軍事的打撃を与えることを明確にしておく」と述べた。

 イスラエルは、ヒズボラが次の戦争でイスラエル北部侵略を計画しているとみて警戒している。最近では、攻撃用トンネルも発見されている。

 8年間続いたシリア内戦が終結に向かい、シリアに派遣していた戦力を呼び戻したヒズボラの矛先は、再びイスラエルへと向けられる。