サウジアラビアで行き詰まるムハンマド皇太子の構造改革
サウジアラビアのムハンマド皇太子が進める脱原油などの経済・社会構造改革が逆風にさらされている。強権を行使し、改革に反対する宗教勢力などを抑え込んできた皇太子だが、国内からの反発は強く、改革が頓挫する可能性も指摘され始めている。(外報部・本田隆文)
アラムコ上場中止の影響大
イエメン内戦でも失態
8月22日、サウジアラビア国営の石油会社「サウジアラムコ」の新規株式公開(IPO)が中止になると報じられた。サウジ政府は16年、アラムコのIPOの方針を発表、経済改革の資金源に充てるとしていた。サウジは巨額のオイルマネーを抱えていながら、原油価格の低下、人口の増加などもあり、巨大な財政赤字を抱えている。そのため、昨年、皇太子に就任したムハンマド王子が、脱原油を訴え、経済の構想改革を推進するとともに、女性の自動車運転の解禁など、女性の社会進出にも意欲的に取り組んできた。
時価総額2兆㌦とされるIPOの株式の5%を上場する予定で、世界最大とされる上場に一時は期待が高まったが、情報開示など上場の条件が厳しいことや、サルマン国王の反対もあり、延期に追い込まれたものとみられている。上場の中止で、改革に悪影響が出るのは必至だ。
ムハンマド皇太子は、国家改革プラン「ビジョン2030」の下、石油に依存する経済の多角化を模索、一方で、イスラム教の戒律による制約の緩和などによる女性の社会進出を目指してきた。そのため、厳格な戒律の実施を求める宗教勢力は改革に反発、それに対し指導者の拘束などで、厳しく対応してきた。
また、王室内でも反発は強い。昨年11月には、「汚職に手を染めた」として企業家や王族ら多数を軟禁し、巨額の資産を没収した。こういった強引な手法への反発は、王室内で尾を引き、皇太子の改革への反発は根強いとみられている。
また皇太子が積極的に関与してきたイエメン内戦もここにきて、行き詰まりを見せている。米国の支援を受けて、アラブ首長国連邦(UAE)とともに、イランの支援を受けるイスラム教シーア派の武装勢力フーシ派の掃討作戦を行ってきたが、出口は見えてこない。フーシ派からのミサイルがサウジ国内に着弾するケースもあり、国内からも、イエメン介入の是非をめぐり疑問の声が高まっている。
サウジ主導の有志連合のミサイルが8月9日、フーシ派が支配する北部サアダで大勢の子供を乗せたバスが連合軍の空爆を受け、子供約40人を含む50人以上が死亡。西部ホデイダ州では8月23日、連合軍の空爆で少なくとも子供22人と女性4人が死亡し、国際社会からの激しい非難を受けた。泥沼化する内戦へ国内からの反発も強まり、戦費も財政を圧迫しているとみられている。
今月に入り、皇太子の実弟のアハメド元内相が、イエメン内戦介入の責任をサルマン国王とムハンマド皇太子に問うメッセージをツイッターに投稿し波紋を呼ぶなど、王室内でもイエメン介入への反発が高まっている。
サウジ人で、ロンドン政治経済学院中東センターの客員教授、マダウィ・ラシード氏は米誌ニューズウィークへの投稿で、改革への逆風が強まる現状を「不安定で危険ですらある」と指摘、「政府の正当性が深刻なほどに損なわれ、内側からのゆっくりとした崩壊に向かっている」と警鐘を鳴らした。
ラシード氏は、その中でもアラムコの上場中止の影響が大きいと指摘している。財政赤字は巨額に上り、このままでは改革は行き詰まり、失業などによる若い世代の政府、王室への反発が高まるのは避けられない。






