ガザで大規模デモ、ハマスが主導

イスラエル米大使館移転に抗議

 5月14日のイスラエル建国70周年記念行事と在イスラエル米大使館のエルサレム移転に反対し、ガザ地区で行われた大規模デモでは、60人ものパレスチナ人の死者が出たが、それと同規模の犠牲者が出ると予想された翌15日の「ナクバ(大惨事)」のデモでは死者は2人だった。その背後には、エジプトによるイスラム根本主義組織ハマスへの圧力があり、ハマスが組織的な動きを見せたことが一つの理由とされる。(カイロ・鈴木眞吉)

エジプト、アメとムチで圧力

 エジプトによる圧力とはアメとムチ、ラマダン期間中にラファ検問所を開放する代わりに、ハマスがデモを管理するということだ。デモはハマスにより主導されていたことを証明するものであり、60人の死者のうち50人がハマスメンバーだったとするハマス幹部の証言もそのことを裏付けている。

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14日、パレスチナ自治区ガザ東部で、タイヤを燃やして米大使館のエルサレム移転に抗議するデモ隊(手前)。奥は催涙弾を発射するイスラエル治安部隊(AFP=時事)

 パレスチナ自治政府のアッバス議長や、イスラエル批判の急先鋒(せんぽう)、エルドアン・トルコ大統領はそれぞれ、「虐殺だ」「イスラエルは占領国で、テロ国家だ」と非難、多くの国や国際機関も、「過剰な警備」とイスラエルを批判したが、ネタニヤフ・イスラエル首相は、「イスラエルに向かって銃を発砲し、爆発物を投げるのは全く平和的ではない」と反論、イスラエル軍の発砲は「正当防衛だ」と主張した。

 ハマスは、イスラム組織「ムスリム同胞団」のパレスチナ支部を母体に、1987年に作られた「イスラム主義」を掲げるパレスチナ人の組織。イスラエルに対し、武装闘争路線を維持、欧州連合(EU)や米国、イスラエル、日本などはテロ組織に指定している。

 イスラエルが2005年9月にガザ地区から撤退。ハマスは06年1月のパレスチナ評議会議員選挙で勝利した。アッバス議長率いる穏健派ファタハが治安権限の移譲を拒否したことから、ハマスは独自に武力を増強、07年6月にガザ全域を武力支配した。

 ハマスがガザ支配後、最初に行ったことは、中心部にモスクを建設したことで、「イスラム化」が彼らの第一目的であることを示している。

 同胞団は、イスラム主義を掲げ、イスラム法(シャリア)に基づいて統治されるイスラム社会・国家・世界の建設と運営を目指している。同胞団の理論的指導者サイエド・クトゥブは、「武力を用いてでもジハード(聖戦)により真のイスラム国家の建設を目指すべきだ」と主張した。国際テロ組織「アルカイダ」の現指導者アイマン・ザワヒリは、クトゥブ主義の流れを汲(く)むジハード団の幹部で、ジハード団は1981年にサダト元大統領を暗殺、1997年には、観光客62人が殺害されたルクソール事件を引き起こしている。

 エジプトではトルコのエルドアン大統領は、同胞団の隠れた世界的指導者とみられている。彼がどの国の元首よりも強くイスラエルを批判し、ハマスを擁護、自国で抗議集会まで開催した理由はそこにある。大統領選の1年半もの前倒しを決めるなど、日増しに独裁色を強めているのも世界イスラム化に向けた戦略とみられている。

 米シンクタンク「ピュー研究所」(本部・ワシントン)が昨年2月、イスラム教徒の人口は2070年までにキリスト教と肩を並べ、2100年には世界最大の宗教になると予測したが、人口増加も世界イスラム化を後押ししている。

 国際社会は、過激派も含め、シーア派・スンニ派を問わず全イスラム教徒を巻き込み、人口増加も追い風に、全世界イスラム化に奔走する同胞団の戦略に、懸念を共有する時を迎えている。