中東混迷の原因は米前政権
エジプト人識者らが指摘
ムスリム同胞団政権の誕生を支援
シリア内戦は、過激派組織「イスラム国」(IS)掃討をほぼ終えた現在、共通の敵を追ってきた各勢力が相互にぶつかり合い、混迷を深めている。エジプト人識者らは一様に、その原因は、民主化要求運動「アラブの春」勃発時のオバマ米大統領の対応の誤りにあると指摘、イスラム組織「ムスリム同胞団」系政権を支援したオバマ氏を非難した。(カイロ・鈴木眞吉)
アサド政権は2月18日、首都ダマスカスに近い反体制派拠点の一つ、東グータ地区を空爆、28日には地上軍を投入し、3月7日までに同地区の4割以上を掌握した。
この間の民間人死者数は7日現在、子供178人を含む805人。国際社会の圧力を受け、ロシアが2月27日から始めた1日5時間の時限停戦は事実上崩壊した。米国務省のナウアート報道官は3月1日、「人道回廊」を「冗談のよう」と皮肉った。
一方、トルコ政府は3日、シリア北西部アフリンを空爆、クルド人民兵組織「人民防衛部隊(YPG)」を支援するシリア政権派民兵36人を殺害した。トルコ主導部隊は同日、アフリン北西部のラジョ地区を制圧、アフリン全体の2割余りを支配下に置いた。
ロシアとイランは、シリア国内に軍事基地を造るなど、中東への影響力拡大に余念がなく、米国はなすすべを持たない。
しかし、「アラブの春」以来、中東、国際社会の動きを注視してきたエジプト人識者の多くは、今日の中東の混乱を招いた原因は、オバマ氏による中東政策の誤りにあると指摘する。最大の誤りは、ヒラリー米国務長官を同胞団幹部と会合させるなど、中東の中心にイスラム組織「ムスリム同胞団」とトルコを据えようとしたことにあるという。
オバマ氏は、ムスリム同胞団を穏健派と見なし、エジプトでは、モルシ大統領率いる同胞団系政権が樹立された。同政権は同胞団の理念に従い同国のイスラム化を推進、世俗的憲法をイスラム色の強い憲法に改正した。同胞団を母体とするパレスチナのイスラム過激派組織ハマスを支援するとしてガソリンを輸出、国内のガソリン不足を招くなど、経済の混乱を招いた。
エジプト国民は軍に助けを要請、シシ現政権の出現につながったが、問題はオバマ氏が、イスラム過激派と同様に「世界イスラム化」を目指す過激な宗教思想下にある同胞団による政権樹立を支援したことにある。
アルアハラム政治戦略研究所研究員ファラハト氏によると、同胞団と過激派の違いはその達成手段にあり、過激派諸派は、主権を取って一気に上から全世界イスラム化を実現しようとし、同胞団はまず会員を増やして下からイスラム政権を樹立、世界イスラム化を実現しようとするという。
エジプト人識者らは、シリア内戦の混迷の原因も、オバマ氏が、世俗政権だったアサド政権を否定、同胞団系「自由シリア軍」を支持し、結果的にイスラム過激派側に立ったことにあると主張している。
オバマ氏の姿勢は、チュニジア、リビア、イエメンでもイスラム主義の台頭を招いた。チュニジアとエジプトはいち早く世俗政権が樹立されたものの、シリア、リビア、イエメンでは内紛が起き、泥沼化した。