トランプ米大統領のサウジ訪問、イスラム諸国との関係強化確認

 トランプ米大統領は、大統領就任後の最初の外遊国にサウジアラビアを選んだ。反イスラムのイメージ払拭(ふっしょく)とともに、オバマ政権時代に冷却化した、アラブ・イスラム諸国、イスラエルとの関係強化を確認した。テロ防止では、イスラム諸国に責任を負うことが必要と主張。オバマ前政権で交わされたイラン核合意の破棄のためにも、同諸国との協力強化は欠かせない。(カイロ・鈴木眞吉)

テロ対策で協力合意
GCCとISとの関係断絶に動く

 トランプ氏は外遊前の5月19日のラジオ演説で「イスラム圏の指導者は、域内のテロとの戦いでより責任を果たし、大きな役割を担うことができる」と述べ、「米国は対テロ戦参加国を助ける」と主張、対テロ戦はイスラム諸国が先頭に立ち、米国は後方支援との基本姿勢を強調した。

トランプ氏(左)とサルマン氏

トランプ米大統領(左)とサウジアラビアのサルマン国王=5月20日、リヤド(AFP=時事)

 この姿勢の背景は、トランプ氏の掲げた「米国第一」の方針に基づく経営者的感覚が最大要因と思われるものの、「テロはイスラム思想がもたらしている。イスラム指導者が責任を持って解決すべきだ」との考えがある。

 トランプ氏は、サウジのサルマン国王との会談で、12兆円に上る米国史上最大規模の武器輸出で合意、今後10年間で39兆円の武器売却を目指すとした。他にも約28兆円に及ぶ民間投資が米国に行われる。米国内軍需産業で数万人規模の雇用が創出されるという。

 支出を抑え、収入・投資を増やし、雇用を拡大することで経済強国、ひいては政治強国にすることを公約としたトランプ政権の面目躍如でもある。

 アラブ首長国連邦(UAE)には、ミサイル防衛用の地対空誘導弾パトリオット(PAC3)を約20億ドルで売却する。

 トランプ氏は湾岸協力会議(GCC)で、テロ組織への資金の流れを封じるための「テロリスト資金摘発センター」設立で合意した。過激派組織「イスラム国」(IS)などの主張に沿ったメッセージがインターネット上に掲載されると、センターのシステムが数秒以内に発見、分析して削除する。GCC6カ国はこれまで、ISなどスンニ派武装集団を支援していると非難されており、同集団との関係完全断絶に動きだした意義は大きい。

 トランプ氏はアラブ・イスラム諸国50カ国首脳らとの会合「米アラブ・イスラムサミット」で、「テロリストが不当に神の名をかたって罪の無い人々を殺す時、信仰を持つすべての人が侮辱される」と述べ、過激派との戦いは、「異なる宗教や文明間の闘争ではなく、善と悪との戦いだ」と明言、「礼拝の場から、地域社会から、聖なる地から、地球上から、テロリスト・過激派を駆逐せよ」と呼び掛けた。テロ犠牲者の95%以上はイスラム教徒だとも指摘、宗教の枠組みを超えた結束の重要性を訴えた。

 オバマ前政権は、過激派の温床「ムスリム同胞団」に、中東アラブ諸国の命運を委ね、過激派の台頭を招いたが、トランプ氏はイスラム指導者にテロ撲滅の責任を持たせた。

ただ一連の会談後、同胞団支持のカタールのタミム首長が、イランを「イスラムの強国」「イランに敵意を抱くのは賢明ではない」などと発言、サウジとUAEは、カタールの衛星テレビ局アルジャジーラを遮断、エジプトも追随した。同胞団をめぐってアラブ・イスラム世界の分断が深まる可能性がある。

 同胞団は全世界にイスラム法を適用させるスンニ派による世界制覇をもくろみ、イランはシーア派による革命輸出の世界化を聖戦視しており、この2極がアラブ・イスラム世界を混乱させている。