イラク・シリアで追い詰められるIS、壊滅は時間の問題か

 過激派組織「イスラム国」(IS)が追い詰められている。イラクでは、ナンバー2の「戦争相」が空爆により死亡した。米国はシリア政策を転換、アサド・シリア大統領退陣よりもIS壊滅を優先する姿勢に転じた。イラクでの最後の牙城モスル、シリアでの最後の牙城「首都」ラッカへの攻撃が激化し、壊滅は時間の問題となってきた。IS側の残虐行為がその激しさを増している。(カイロ・鈴木眞吉)

激しさ増す残虐行為
「人間の盾」で民間人が多数犠牲

 ISの劣勢が現実となり、誰の目にも敗北が明らかになってきたのは、米国主導の有志連合軍が、ISがイラクで最大の拠点としてきたモスルと、シリアで、最大拠点としてきたラッカに対し、同時攻撃を実行し始めた頃からだ。

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3月24日、戦場を逃れ、子供を抱えて泥道を歩くイラク北部モスルの避難民の少女(AFP=時事)

 一方だけを攻撃した場合、他方に拠点を移して態勢を立て直すことが可能だが、同時攻撃を受けたためそれが困難。同時攻撃の決断は、有志連合軍側が同時的に勝利できる戦略的な見通しが付いたことを意味している。

 モスル奪還作戦は昨年10月17日、アバディ・イラク首相の宣言で開始され、ラッカ奪還作戦は昨年11月7日に開始された。カーター米前国防長官は昨年10月24日、訪問先のイラクで、モスル・ラッカ同時攻略を宣言している。

 モスル東部を奪還後は、ISの本拠地が集中するモスル西部の奪還に集中、ジャファリ・イラク外相は解放作戦終了は7月をめどにしていると明言した。ラッカでは、クルド人とアラブ人の合同部隊「シリア民主軍(SDF)」が3月26日、ラッカ近郊の軍用空港を奪還、28日には、同市街地から約40㌔のシリア最大のダム、タブカ・ダムを掌握した。ラッカ包囲網が完成しつつある。

 しかしここで問題が噴出、ISは「人間の盾」作戦を露骨に実施、今年3月17日実施の有志連合軍によるビルの空爆で多数の民間人を含む200人以上が死亡した。ISは、住民らをビルに強制的に集め、爆弾をビル内の各所に仕掛け、犠牲者を拡大させた。有志連合軍は作戦を一時中止せざるを得ない状況にまで追い込まれた。

 国連は、モスルおよびその近郊での2月以降の民間人死者数は400人を超えると指摘した。

 アムネスティ・インターナショナルは、有志連合軍に対し、民間人保護の取り組み強化を求める一方、ISの人間の盾作戦を、「恥知らずな行為」と非難した。

 ISは、人間の盾作戦をはじめ、斬首、遺跡破壊、改宗の強制、集団処刑など、数限りない残虐行為を重ねてきたが、彼らは、イラクやシリア政府が行ってきた歴史や社会、音楽などを完全に廃止し、イスラム教の聖典「コーラン」のみに基づいた教育を実施、コーランの中に、行動の規範を求めた。突き詰めれば、コーランの中にある言葉が、各種残虐行為を正当化させており、多くの識者はそのことを認知している。

 エジプトのシシ大統領は、就任直後から、暴力を容認するイスラム関連書籍の中から、暴力正当化の表現を削除するよう、イスラム教スンニ派総本山アズハルに求めた。同大統領は今月3日、ホワイトハウスで、「イスラム過激派思想は邪悪なイデオロギーだ」と明言した。

 アズハルのアフマド・タイエブ総長は当初、新方針に従い、世界中のスンニ派指導者をカイロに集めて、全信徒の再教育を宣言するなど、改革姿勢を示していたが、内部に造反組が存在したことから、現在はシシ大統領の要請を拒否・抵抗姿勢に転じ、イスラム教内宗教改革は、頓挫している。

 テロや残虐行為に無力で、責任逃れに徹するイスラム指導者に批判を強める良識的なイスラム教徒も少なくない。

 エジプトのシンクタンク、アルアハラム政治戦略研究所のムハンマド・ファイエズ・ファラファト研究員は、「イスラム指導者が勇気を出して新たな宗教令を出し、非イスラム教徒の殺害や納税義務を正当化する旧来のイスラム書籍を批判すべきだ」と指摘した。