露がシリアで着々と勢力拡大
内戦終結への道筋見えず
ロシアは2015年9月にシリア内戦へ本格的な介入を開始した。内戦介入に及び腰のオバマ前米政権を尻目に、アサド政権支援に乗り出した格好で、シリアでの基盤構築を着々と進めている。ロシアの支援を受けて息を吹き返したアサド政権だが、一方のトランプ米新政権は、明確なシリア政策を示さず、内戦終結への道筋は見えてこない。
(本田隆文)
対応定まらぬトランプ新政権
不調に終わった和平協議
オバマ前政権が反政府勢力を支援する一方で、ロシアは内戦当初からアサド政権を支持してきた。シリア内で勢力を維持する過激派組織「イスラム国」(IS)の掃討を掲げて本格介入したものの、主要な標的は、反政府勢力だった。ロシアは空爆などでアサド政権を支援、反政府勢力は昨年12月、最後の都市部の拠点アレッポを政府軍に奪われている。
ロシアの介入の狙いは、親露のアサド政権を存続させることで、中東・地中海地域の唯一の軍事拠点を維持することにあったとみられている。タルトゥス海軍基地とフメイミム空軍基地を拠点に、政府軍を支援してきたが、アレッポ制圧でその目的はほぼ達成した格好だ。その後、両基地の修復、拡張を開始し、地中海をにらむ軍事力の強化を着々と進めている。
アサド政権はアレッポ制圧後も反政府勢力への攻撃を続けることを主張したが、ロシアはそれを阻止し、停戦交渉に持ち込んだ。これは、反政府勢力を存続させて、アサド政権だけが強い支配力を持つことを阻止するためではないかとみられている。ロシアにとっては、アサド政権がシリア全域を支配する強い政権となるよりは、他の勢力と拮抗させることで、自国のシリア内でのプレゼンス維持を容易にしようとしているように見える。
ロシアは先月のシリア和平協議で提示したシリア憲法草案で、シリア北部のクルド人らの「文化的自治」を求めており、クルド人勢力の温存にも前向きだ。ただ、トルコはこれに強く反発しており、実現のめどは立たない。
その一方で、米国の影は薄くなる一方だ。
1月23、24の両日、カザフスタンのアスタナで、シリア和平協議が開催された。参加したのは、ロシア、トルコ、イラン、アサド政権、反政府勢力。新政権が発足したばかりの米国は、駐カザフ大使がオブザーバー参加するにとどまった。
シリア内戦の終結を目指して開かれた協議だが、初日から、反政府側と政権側が激しく非難し合うなど、交渉は難航した。共同声明の署名にこぎつけたものの、政府と反政府勢力は署名しないなど、実効性に疑問を残している。
ロシアのラブレンチェフ大統領特別代表は協議閉幕後の記者会見で「(ロシア、トルコ、イランの)3カ国による停戦監視の仕組みをつくることができた」と成果をアピールした。しかし、停戦監視の具体策は明示されず、停戦継続は不透明だ。
トランプ氏は、選挙戦中から、反政府勢力への不支持を表明してきたものの、まだ、政権内でシリアへの対応は確立されていないようだ。ロシアとしては、トランプ政権の発足を機に、オバマ政権時に悪化した対米関係を改善しようと、米国の和平協議への参加を模索したものの、それも今のところ不発に終わっている。
トランプ氏は、ISなどイスラム過激組織への攻撃の強化を強く訴えている。政権発足後すぐに、イエメンでアルカイダ系テロ組織への攻撃を実施したばかりだ。
ロシアは、米軍がIS殲滅(せんめつ)でシリア介入を強化することは歓迎するだろう、ただロシアが大規模な、軍、予算を投じてIS殲滅に乗り出すことは、これまでのシリア内でのロシアの行動を見る限り、考えにくい。自国に直接の脅威が及ばない限りISへの対応は本格化させない可能性もあり、米国を前面に出し、自国の犠牲を払うことなく、ISが殲滅できれば、ロシアとしても歓迎というところだろう。
トランプ氏は就任後、難民を保護するための「安全地帯」の設置を積極的に呼び掛けている。1月29日にはサウジアラビアのサルマン国王との電話会談で、紛争が続くシリアとイエメンでの「安全地帯」設置で同意したことが伝えられている。
安全地帯設置は、オバマ前政権下でも検討されたが、安全地帯保護のために空軍力だけでなく地上軍が必要となるため断念した経緯がある。
トランプ政権のシリア内戦の指針はいまだ定まらず、内戦終結への道筋は見えてこない。