トルコ最大紙「ザマン」が政府管理下に
強権政治進めるエルドアン大統領
エルドアン・トルコ大統領の強権体質がまたも露(あら)わになった。同国最大手の日刊紙ザマンを、裁判所の決定を通じ5日、政府の管理下に置いたのだ。イスタンブール裁判所は7日、ザマン系大手通信社「ジハン通信」を管財人に任命する決定を下した。「トルコの言論の自由は風前のともしび」と懸念する声が国内外にあふれている。エルドアン氏は、イスラム過激派組織「ムスリム同胞団」の流れを汲む諸政党を率いて、最終的には「オスマントルコの再興」を画策しているとみられている。
(カイロ・鈴木眞吉)
ギュレン師台頭に危機感か
欧米は「言論の自由抑圧」と非難
政府の管理下に置かれたザマンは、エルドアン政権に批判的なイスラム教指導者フェトフッラー・ギュレン師を支持する穏健派組織「ギュレン運動」と関係が深いとされ、同大統領は、同組織には政府打倒の意図があると主張、同組織を「テロ組織」と見なして関係者を相次いで拘束するなどしてきた。
ザマンの発行部数は約60万部。ザマン・メディアグループは、系列の英字紙などを含めれば約65万部とされる国内最大の新聞社。
同紙の編集長はロイター通信に対し、「トルコにおける報道の自由は事実上終わった」と慨嘆、政府管理下に置かれる前の最後の新聞となった5日付朝刊の1面で、「憲法は無視された。トルコメディア史上、最も暗黒の日々になった」と警告した。英字紙トゥデイズ・ザマンも1面で、「トルコの報道の自由にとって恥ずべき日。ザマン・メディアグループ、占拠される」と報じた。
裁判所は4日、ザマンを運営する管理責任者を任命したが、政府の接収に抗議する同紙支持者約500人が、4日夕から5日夜にかけて、イスタンブールの本社前に集まった。それに対し同国治安部隊は4日、催涙ガスやゴム弾、高圧放水銃を使用して支持者を追い払った。当局者らは同社の正門をこじ開けて、執行人ら数十人が社内に入り、同紙を正式に政府の管理下に置いた。同紙の新運営陣は5日、編集長を解任した。
この動きに対し、米政府は、「政府批判を行うメディアを、法的手段で弾圧した嘆かわしい事例」と指摘、トルコ政府に言論の自由を尊重するよう求めた。
欧州連合(EU)も「基本的人権を保障すべきだ」と非難した。
ロシア外務省も声明を発表、「言論の自由に関する国際的な基準をトルコ政府が満たしているかどうか、欧州議会は調査すべきだ」と主張した。米ニューヨークに本部を置く国際NGO「ジャーナリスト保護委員会」は、「トルコに残る批判的なジャーナリズムを事実上窒息させるものだ」として批判した。
政府の管理下に置いた法的根拠について、ダウトオール・トルコ首相は7日、「テロ組織への不正な資金援助の疑いで捜査中だ」と述べ、報道への「政治的関与ではない」と強調した。検察官の1人が、「このテロ組織が、クルド系反政府武装組織『クルド労働者党(PKK)』と協力関係にあり、政権転覆をもくろんでいる」と語ったとの報道もある。
トルコ治安当局は2014年12月に、ギュレン師が行った演説内容を掲載したことは「テロ容疑に当たる」と断定、ザマンの編集長ら約30人を逮捕。15年10月にも、トゥデイズ・ザマンの編集長を、エルドアン大統領攻撃の罪で逮捕した。同師系の企業や銀行への介入も強めているとみられている。
ギュレン運動はもともと、エルドアン氏が創設したイスラム系政党「公正発展党(AKP)」と協力関係にあったが、13年に対立が表面化した。警察や教育機関、メディア等に広く影響力を持つギュレン師の台頭に危機感を抱いたエルドアン氏が「政敵」とみなしたことが対立の発端とみられている。世俗主義とイスラム教は矛盾しないとの比較的穏健な立場を取るギュレン師側も、AKPの長期政権化に伴うイスラム色や独善色の強化や、国是である世俗主義や民主主義が損なわれることへの危機感を強め、離反し始めたともみられている。
13年暮れに発覚した、エルドアン氏の親族が関与したとされる大型汚職事件も、ギュレン運動による告発が発端とされる。政府は15年秋、ギュレン師率いる団体を「テロ組織」に指定した。同師は現在米国に亡命中で、エルドアン大統領の政治手法を強権的だと厳しく批判し続けている。
接収後、同紙には、エルドアン大統領の女性集会への参加や、政府による30億ドル規模の橋の建設など政府の宣伝的内容が掲載されるようになった。






