イスラエルとスーダン 正常化で合意
パレスチナは反発し孤立
トランプ米大統領は10月23日、米仲介によりイスラエルとスーダンが国交正常化に合意したと発表し、9月のアラブ首長国連邦(UAE)、バーレーンに続き、スーダンがイスラエルと国交を樹立することで中東和平が前進すると歓迎した。一方、パレスチナは強く反発し、孤立化が進んでいる。(エルサレム・森田貴裕)
スーダンのテロ国家指定解除
米の経済支援可能に
イスラエルとスーダンの国交正常化合意を受け、パレスチナ自治政府のアッバス議長は声明で、「スーダン政府の決定はアラブ和平案に違反する」と訴え、スーダンとイスラエルの国交正常化合意は受け入れられないという姿勢を示し、国際法に基づいて包括的で公平な平和を実現する必要性を強調した。イスラエルによるパレスチナ占領地支配の終了と、東エルサレムを首都とするパレスチナ国家の承認を改めて求めたアッバス氏は、「パレスチナ問題を代弁する権利は誰にもない」と述べ、トランプ米政権による仲裁に非難と拒絶を表明した。
パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム根本主義過激派組織ハマスは、イスラエルとの国交正常化合意は「政治的犯罪だ」と述べ、スーダン政府を批判した。
今年8月以降、パレスチナ問題をめぐり長年対立してきたイスラエルとアラブ諸国の関係改善が相次いでいることで、パレスチナ側は強く反発しているものの、他のアラブ諸国の賛同が得られず苦しい立場が続いている。2002年にサウジアラビアが主導したアラブ和平案により、パレスチナやアラブ諸国はこれまで、国交正常化はイスラエルが1967年の第3次中東戦争(6日戦争)で占領したパレスチナ領土から撤退し、パレスチナ国家を承認することなどを条件としてきた。しかし、後ろ盾となってきたアラブ諸国はイスラエルとの関係改善に乗り出すなど、パレスチナは孤立の度合いを深めている。
イスラエルのネタニヤフ首相は、スーダン政府との合意は「平和のための劇的な突破口であり、新時代の始まりである」と歓迎した。
イスラエルとスーダンの国交正常化合意に先立ち、トランプ氏は19日、スーダンが、1998年にケニアとタンザニアで起きたアルカイダによる米大使館爆破事件の被害者とその家族に対する賠償金の支払いで合意したことにより、テロ支援国家指定を解除すると表明した。米国は1993年、独裁者のバシル前大統領が国際テロ組織アルカイダの首領だった故ウサマ・ビンラディン容疑者をかくまっていたことから、スーダンをテロ支援国家に指定していた。
スーダンのハムドク首相は、トランプ氏が米国のテロ支援国家指定を解除したことに謝意を表明し、「スーダン政府は、国民に最も役立つ国際関係に向けて取り組んでいる」と述べた。テロ支援国家指定解除により、スーダンは米国からの経済支援や国際機関からの融資などを受けることも可能となり、経済再生の道が開かれる。
こうしたトランプ米政権の外交政策により、中東地域の安全保障面での変化も見られる。イスラエルは23日、米国製の最新鋭ステルス戦闘機F35のUAEへの売却を容認した。イスラエルは長年にわたり、中東地域での軍事的優位を維持する必要があるとして米国からアラブ諸国への最新鋭戦闘機の売却に反対してきた。F35戦闘機を配備しているのは中東ではイスラエルのみであるため、
UAEとの国交正常化後も、イスラエルはF35戦闘機のUAEへの売却に対して反対の姿勢を崩さなかった。しかし、ガンツ副首相兼国防相が22日に米国防総省を訪問しエスパー米国防長官と会談した際、イスラエルの軍事的優位を維持させるとの確約を得たことから、ネタニヤフ首相は、一転してUAEに対する特定兵器の売却に反対しない意向を表明した。
イスラエルのメディアは、UAEへのF35戦闘機の売却を容認する代わりに、イスラエル空軍への世界最強とうたわれる最新鋭ステルス戦闘機F22の配備を妨げている「オビー修正条項」を取り除くよう米国に求めたと報じた。この修正条項は、機密漏洩(ろうえい)の対策が確立するまでF22戦闘機の輸出を禁じている。
アラブ諸国にF35戦闘機が配備された後も中東地域の安定につながるイスラエルの軍事的優位が続く可能性は高い。