ICCが「戦争犯罪」正式捜査へ
パレスチナ「歴史的な日」と歓迎
イスラエル「不条理だ」と猛反発
国際刑事裁判所(ICC、本部オランダ・ハーグ)のベンスダ主任検察官は20日、イスラエルの占領下にあるパレスチナ自治区で、戦争犯罪が行われている可能性があるとして、正式に捜査を開始する方針を示した。ICCの決定を受けパレスチナ側は「歴史的な日だ」として歓迎している。一方、イスラエルのネタニヤフ首相は「不条理な」決定と非難し、猛反発している。(エルサレム・森田貴裕)
米国は捜査に「断固反対」
ベンスダ氏は2015年1月に、イスラエルとパレスチナ自治区で行われてきたとされる戦争犯罪や人道に対する罪についての予備調査を開始。「パレスチナ人が暮らすヨルダン川西岸やガザ地区、東エルサレムで戦争犯罪が行われてきた」と指摘。これまでの予備調査の結果、イスラエルの入植政策、2014年のガザ侵攻、ガザ境界付近の抗議デモの暴徒へのイスラエル軍の対応に、捜査を進める合理的な根拠があるという。また、ガザ地区を実効支配するイスラム根本主義組織ハマスや他の武装組織についても、イスラエル市民を標的にするなど戦犯となる材料があり、捜査するという。しかし、イスラエルはICC加盟国ではないことから「ICCが管轄権を持つ地域かどうか裁判部に判断を求めた」という。
パレスチナは15年にICCにオブザーバー国家として正式加盟した。その後、イスラエルによる軍事攻撃や入植活動に対するICCの捜査を要請、圧力をかけていた。
ICCの捜査開始の決定を受け、自治政府のアッバス議長は「これは歴史的な日であり、占領下にあるパレスチナ人は誰でもICCに訴訟を起こすことができる」「この素晴らしい日を皆で祝う」と歓迎した。
パレスチナの各会派は、イスラエルの政治家、軍の将校や兵士を戦争犯罪の容疑で起訴できるという希望を表明した。
パレスチナ解放機構(PLO)執行委員会事務局長のサエブ・アリカット氏は「前向きで勇気づけられる一歩であり、戦争犯罪の犠牲者であるわれわれパレスチナ人への希望のメッセージだ」と述べた。また、イスラエルに対する捜査の開始が遅れると、「日々の占領の犯罪の結果として、パレスチナ人により多くの苦痛をもたらす」と警告した。
自治政府高官のハナン・アシュラウィ氏は、「ICCがヨルダン川西岸とガザ地区に管轄権を持っていると考えている」と述べ、管轄権の問題を裁定する裁判前の検察官の要求が、積極的かつ迅速に判断されることへの希望を表明した。
PLO 高官によると、パレスチナ側は、イスラエルの戦争犯罪に関してICCに提出する資料を既に準備しているという。
ガザ地区のハマスは「パレスチナ人の生活とパレスチナ問題における通過点だ」と称賛。「イスラエルの犯罪捜査に協力する用意がある」と述べ、ICCに戦争犯罪の捜査を直ちに開始するよう求めた。
一方、イスラエルのネタニヤフ首相は、「ICCは、主権国家が対象となるはずだ。パレスチナ国家はいまだ存在せず、それを対象にするのは、政治的な意図だ。ユダヤ人が聖書の地、父祖の地に定住することを戦犯に変えている。不条理だ」と猛反発。「われわれの権利と歴史的真実のために戦う」と主張した。
ポンペオ米国務長官は、「米国は、イスラエルを不当に攻撃しようとするこの措置に断固として反対する」と主張。パレスチナは主権国家ではなく、ICCを含め、国際機関、国際的な組織や会議に加盟、参加する資格はないとしている。
ポンペオ氏は「紛争を法的に解決することはできず、イスラエルとパレスチナ間の交渉によってのみ解決される政治問題だ」と述べている。
02年に発足したICCは、戦争犯罪や人道に対する罪を犯した個人を訴追、処罰するための国際刑事裁判機関であり、国家を訴追、処罰することはできない。
トランプ米政権は引き続き和平交渉を支援するとしているが、イスラエルでは政治的混乱が続き、1年間に3度目となる総選挙が来年3月に予定されている。和平交渉へ向けたイスラエル政権の樹立が望まれる。






