韓国大統領演説、対日関係改善は行動で示せ


 韓国の文在寅大統領は光復節(日本統治からの解放日)の記念行事で演説し、これまでの反日一辺倒の主張を抑制して日本に対話と協力を呼び掛けた。強硬路線をひとまず緩めたことは評価できるが、関係悪化の発端となった旧朝鮮半島出身労働者の徴用問題をめぐる大法院(最高裁)判決への言及は一切なかった。関係改善に向かうきっかけとなるかは不透明だ。

トーンダウンした非難

 文大統領は「今でも日本が対話と協力の道に進むなら、われわれも喜んで手を差し伸べる」と述べた。これに先立ち日本が韓国への輸出手続き簡素化を見直す、いわゆる「ホワイト国」からの除外を閣議決定したことを受け、「加害者である日本が盗人たけだけしく騒ぐ状況を決して座視しない」と激しい口調で非難したのとは対照的だ。

 韓国内で広がる日本製品不買運動に関しても文大統領は「韓国国民が日本の経済報復に成熟した姿勢で対応することは、両国国民の友好が損なわれないことを望むレベルの高い国民意識ゆえだ」と述べて自制を促した。

 日本政府内には文大統領の演説を「変化の兆し」と受け止める向きもあるようだ。トランプ米大統領や米政府高官から日韓関係悪化を懸念する声が上がっていることを意識し、意図的に対日非難をトーンダウンさせた側面もあろう。

 だが、日本側が対話や協力を拒んでいるわけではない。問題は関係悪化の原因である元徴用工訴訟の大法院判決について、これが1965年の日韓請求権協定を否定した重大な問題だとし、日本政府が誠意ある対応を求めてきたことに今回も無回答だった点である。

 自ら関係悪化を引き起こし、原因を除去しないまま対話と協力を呼び掛けることに違和感を覚える。

 文大統領が対日関係改善をどこまで本気で考えているか疑わしいのは、いわゆる従軍慰安婦問題への姿勢にも表れている。

 文大統領は元慰安婦を称える法定記念日に、直接的な日本批判は避けながらも自身のフェイスブックに「平和と女性の人権に関するメッセージとして国際社会と共有し、広げていく」と書き込み、国際社会に韓国政府の立場をアピールする考えを示したからだ。

 日韓は2015年末に慰安婦問題で政府間合意に至り「最終的、不可逆的な解決」を確認したが、文政権は合意に基づき設立された関連財団を一方的に解散するなど事実上、合意破棄の手続きを踏み始めている。

 韓国では与党内で「反日は来年総選挙に肯定的」などとする報告書が配布され物議を醸したばかりだ。仮にそうした意識の下、文政権が反日路線を進めていたとすれば遺憾だ。日韓両国にとって安全保障にも経済にもマイナスにしかならない。

五輪参加にも改善必要

 文大統領は今回の演説で来年の東京五輪に触れ「友好と協力の希望を持てるよう望む」と述べた。一部では日韓関係悪化の煽りを受けボイコット論まで浮上していた東京五輪に韓国が何のわだかまりもなく参加するためにも、関係改善への意志を行動で示してほしい。