日本企業資産現金化、韓国政府は収拾策を示せ


 日本統治下で強制徴用されたという朝鮮半島出身者とその遺族らが起こした元徴用工訴訟で、差し押さえた日本企業の韓国内資産を現金化するため、原告が日本製鉄(旧新日鉄住金)と不二越の資産売却を命じるよう現地の裁判所に申し立てた。現金化された場合、日本は対抗措置に踏み切る構えで、日韓関係のさらなる悪化は必至だ。こうした事態にもかかわらず韓国政府が収拾策を示さないのは無責任だと言わざるを得ない。

日本を知らず責任転嫁

 原告側は昨年10月に韓国最高裁が日本企業への賠償命令判決を確定させてから半年が経過したことに触れ、「これ以上、現金化手続きを遅らせることはできない」と説明した。関連訴訟で差し押さえ資産の現金化手続きが開始されることになったのはこれが初めて。現金化されれば日本企業に実害が生じることになる。

 日本政府は「日本企業の資産の不当売却」とし、韓国政府に「断じて受け入れられない」と強く抗議したが、当然だ。韓国に進出している他の日本企業への悪影響も憂慮される。

 日本の主張は一貫している。個人請求権問題は1965年の日韓請求権協定で解決済みとする日韓両政府共通の認識を土台に対応すべきというものだ。

 しかし、文在寅政権はこの前提を無視するかのように司法の判断だとして傍観の構えを崩していない。隣国同士の良好な関係を構築しようという意志は見えてこない。

 文大統領は首相・閣僚経験者らとの懇談で「日本が(歴史)問題をしきりに国内政治に利用し、問題を増幅させる傾向がある」と語った。日本の実態を知らないまま日本に責任を転嫁する不見識な発言には閉口する。

 2019年版外交青書では、日韓関係について「未来志向」という文言が削除された。韓国側はこれに反発したが、元徴用工訴訟問題で一向に方針を示さない韓国政府に日韓関係改善の意志があると期待する方が無理というものだ。

 不幸な過去を直視することは必要だが、文政権は被害者の事情に引きずられ過ぎていないか。いわゆる従軍慰安婦問題をめぐる日韓合意に基づく財団を解散させた時も、合意について被害者の承諾を得ていないことを一番問題視していた。韓国社会がそれに違和感を覚えない様子であることも問題を長期化させている。

 韓国は駐日大使を交代させ、今月、新任の南官杓前国家安保室第2次長が赴任する予定だ。来月大阪で開催される20カ国・地域(G20)首脳会議には文大統領も出席するため、安倍晋三首相との首脳会談が実現するか関心を集めている。

 しかし、最大懸案の元徴用工訴訟問題で韓国政府が方針を示さない限り、悪化の一途を辿(たど)る日韓関係を改善させる転機をつくるのは難しいだろう。

悪化放置できない情勢

 文政権が目指す朝鮮半島の平和定着に向けても、それが北朝鮮非核化を前提にしたものであれば日本との協力は欠かせないはずだ。日本との関係悪化を放置できるほど北東アジアの安保情勢に余裕はない。