正男氏暗殺謝罪、北は全てのテロ行為を償え
昨年2月、マレーシアのクアラルンプール国際空港で北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の異母兄、正男氏が暗殺された事件で、ベトナム人女性が実行犯の一人として関わったことについて北朝鮮がベトナムに非公式に謝罪したと報じられた。事件をめぐり北朝鮮が謝罪するのは初めてで、事実上、北朝鮮が直接関係のない他国の国民を巻き添えにして犯行に及んだことを認める形になった。
ベトナムが圧力
米政府は今年3月、事件と関連し金委員長が正男氏を猛毒の神経剤VXで暗殺したと結論付けた。また8月には、事件が起こったマレーシアの裁判所も北朝鮮の男らが殺害に関与したと認定した。謝罪はそれらを追認するものだが、犯行を自供したに等しく、その意味は大きい。
肉親でさえ残虐に暗殺する北朝鮮独裁者の本性が改めて国際社会に知れ渡ることになり、過去に繰り返された数々のテロ行為に対しても厳しい目が向けられることになる。
自国民を犠牲にしながら独裁体制維持のためテロ行為を繰り返した北朝鮮には、その全てを認め代償を払う責任がある。
正男氏の顔にVXの液体を塗ったベトナム人女性ドアン・ティ・フオン被告らは、北朝鮮国籍の男4人と共謀していたとみられている。男4人は事件後、国外に逃亡し、フオン被告らは殺人罪などで起訴され、現在、公判中だ。
ベトナム政府は自国民を巻き添えにしたことについて北朝鮮に公式謝罪を要求していた。特に北朝鮮国籍のリ・ジヒョン容疑者は元駐ベトナム北朝鮮大使の息子であることを問題視し、北朝鮮との断交も辞さない構えを見せた。外交官を除く北朝鮮国籍保有者の査証延長や北朝鮮レストランの賃貸契約更新などにも応じてこなかった。海外での外貨稼ぎに奔走する北朝鮮にとり、これらの報復措置はこたえたとみられ、今回の謝罪につながったようだ。
北朝鮮から謝罪を取り付けた今回の件は、テロ行為だけでなく南北・米朝首脳会談で非核化を約束した後も核・ミサイル開発の手を緩めない北朝鮮の政策を変えるためには、圧力が極めて有効なことを物語っている。
北朝鮮による拉致事件を抱える日本も、「拉致は解決済み」という立場を取り続ける北朝鮮を動かすには圧力が欠かせない。北朝鮮が経済的打撃を被る各種制裁を継続させるだけでなく、さらに強力な措置も必要だ。
北朝鮮は日本との国交正常化を果たし、戦後補償という名目で巨額の補償金を日本から引き出すのが狙いとされる。北朝鮮が日本との交渉に応じる理由はここにあろう。北朝鮮との対話は必要だが、被害者全員の帰国など拉致事件の全面解決を最優先させることが大前提でなければならない。
安保の現実見ない韓国
1987年の大韓航空機爆破事件など北朝鮮によるあまたのテロに遭ってきた韓国が北朝鮮の融和路線に歩調を合わせ、圧力を緩め、国際社会の制裁を無力化させるかのような行為まで見せている。平和ムードに酔いしれ、安保の現実から目をそらしているのではないか心配だ。