韓国「次期大統領候補」特集 李総理1位も対日問題触れず
国内と北を向いた「積弊清算」
朝鮮半島出身の戦時労働者(いわゆる「徴用工」)の「補償」について韓国大法院(最高裁)が10月30日、新日鉄住金に賠償判決を出してから日韓関係はかつてなく悪化している。
安倍政権は、1965年の請求権協定を否定し、戦後の日韓関係を覆すものだと強く反発しつつも、韓国の司法判断だとして「戦略的放置」の状態だが、韓国では類似の判決が続き、「補償」を得られるとあって「元徴用工」が続々と名乗りを挙げ、裁判所や役所、メディアに問い合わせをするという騒動になっている。
そのような両国関係の危機にも、判決後、長らくコメントを出していなかった文在寅大統領はほぼ1カ月後の12月1日、アルゼンチンでの20カ国・地域(G20)首脳会議からニュージーランドへ向かう飛行機の中で同行記者団に対して、「歴史問題は歴史問題として別途、賢く処理しながら、未来志向的な協力をしていかなければいけない」と述べて、これまでの経済・文化交流とは切り離して対処する「ツートラック」対応を取ると繰り返した。
文大統領のコメントが遅かったのは「元徴用工」問題への対応を李洛淵国務総理(首相)に任せていたことが理由の一つとして挙げられる。李総理は東亜日報の東京特派員を務めた経験もあり「知日派」として知られ、日本に知己も多いといわれる。
ところが、その総理室からも「元徴用工」判決への対応策が一向に出て来なかった。最近になって「韓国政府と請求権協定によって恩恵を受けた韓国企業」に「日本企業と日本政府」を加えた「2+2」で基金か財団をつくって、「元徴用工」に補償していこうという案が検討されているという報道が漏れてきたが、これが総理室の正式案でもない。
韓国の日本専門家がそれとなく日本政府関係者に伝えているのは「2+1」つまり日本政府を加えない案を落としどころにしたいという韓国政府の意向だ。しかし、「慰安婦」で財団が崩壊したばかりでは、日本側ものめる案ではなく、水面下の調整も難航している。
ここでキーマンとなる李総理について、月刊中央(12月号)が取り上げている。「2018年大韓民国ホットピープル6人」の特集で「次期大統領候補」と目される人物に焦点を当てた記事だ。李総理はその中の一人で、世論調査では高い支持率を得ており、次期大統領候補1位となっている。
ただ一点ネックとなるのが、李総理の出身だ。韓国では出身地域間の対立が政治だけでなく社会のあらゆる場面に現れてくる。朴正煕元大統領が政争でその「地域感情」を利用してからという説もあれば、もともと新羅と百済の対立に根があるという見方、高麗の建国王・王権が「湖南」を差別してからという説などもろもろある。
特に現在の慶尚道(嶺南地方、ほぼ昔の新羅)と全羅道(湖南地方、ほぼ昔の百済)は大統領選挙のたびに対立構図の下絵となってきた。李総理の出身は全羅南道で「湖南」だ。これまで大統領は金大中氏だけで、人口も少なく圧倒的に不利。他地域の支持を集めなければ当選は難しい。「湖南限界論」と言われる所以(ゆえん)である。
李氏の特集ではもっぱらこういったことばかりが取り上げられ、現在の懸案である「元徴用工」については一言も触れられていない。李総理がうまく乗り切れば、大統領候補に一歩近づける材料になるだろうに、この扱いである。
李総理を取り上げながら「元徴用工」や「対日関係」が出てこないのは、韓国ではこれが2国関係を揺るがすほどの深刻な問題ではないと捉えられていることの証左でもある。その認識の甘さは置くとしても、「積弊清算」の目はもっぱら国内や北に向けられているわけだ。日本に「過剰な反応は慎め」というのも頷(うなず)けなくはない。
編集委員 岩崎 哲





