米韓首脳会談、米朝仲介果たせなかった文氏


 米国のトランプ大統領と韓国の文在寅大統領による首脳会談がワシントンで行われた。議題の大半は来月12日にシンガポールで開催予定の米朝首脳会談に関するものだったが、トランプ氏が延期の可能性に初めて言及し、北朝鮮非核化の方法などをめぐる米朝の隔たりが会談開催そのものに影を落としていることが浮き彫りになった。

 トランプ氏「延期も」

 トランプ氏は会談で「われわれが求める特定の条件が実現しなければ、12日に会談が開かれない可能性は十分ある」と述べた。米国は北朝鮮に核の完全かつ検証可能で不可逆的な廃棄を求めており、非核化を一気に進めるいわゆる「リビア方式」を念頭に置いていると言われる。

 だが、北朝鮮は米国が一方的に核放棄だけを求めるのであれば会談を取りやめる可能性を示唆していた。今回のトランプ氏の発言はこれを牽制(けんせい)したものとみられる。

 トランプ氏は金正恩朝鮮労働党委員長が今月、2度目の訪中をし、習近平国家主席と会談してから「態度が変わったのが気に入らない」とも述べた。

 北朝鮮は非核化の条件として「関係国の段階的で歩調を合わせた措置」を挙げ、習氏はトランプ氏に「北朝鮮の要求に応じるべき」と促した。中朝が結託して中途半端な非核化を米国に呑(の)ませようとしているとトランプ氏は認識したかもしれない。

 これに対し文氏は、米朝会談や北朝鮮の完全非核化について「懐疑的な見方が米国に多いのは理解している」とした上で「過去に失敗したから今回も失敗すると悲観すれば歴史の発展はない」と述べ、予定通り会談を開催すべきと主張した。

 文氏は、米朝会談が実現し北朝鮮非核化や朝鮮半島平和体制の話し合いがスタートすることを望んでいるはずだ。今年2月の平昌冬季五輪を皮切りにした南北融和ムードを支え、南北首脳会談を経て米朝会談への橋渡し役を自任している。

 だが、北朝鮮に完全非核化を迫る気概は感じられず、米国とは大きな隔たりがある。文氏は北朝鮮により理解を示してきたと言っても過言ではなく、米朝双方の溝を埋めるべく仲介役を果たせたとは言い難い。

 北朝鮮は25日までの間に北東部・豊渓里にある核実験場の廃棄を実施する。これを外国報道機関に公開するため取材陣の入国を許可したが、韓国の取材陣については一時名簿を受け付けず、入国が危ぶまれた。訪米した文氏に、米強硬派を説得するよう揺さぶりをかけた可能性がある。

 最も懸念されるのは、北朝鮮非核化の見通しが曖昧なまま米朝首脳が会談を行い、双方が「成果」を強調して終わる政治ショーに転落することだ。

 日本はトランプ氏にその危険性を繰り返し訴え、制裁逃れや核・ミサイル開発のための時間稼ぎを狙う北朝鮮の術中にはまらないよう警鐘を鳴らし続けなければならない。

対話の真意見極めを

 拉致問題を抱える日本としても被害者全員の帰国に向け北朝鮮との交渉は不可欠だが、北朝鮮の対話攻勢の真意を見極める慎重さを忘れてはならない。