北の核実験中止、非核化への本気度が見えない
北朝鮮が核実験と大陸間弾道ミサイル(ICBM)の試射の中止を決定した。北部・豊渓里の核実験場の廃棄も決めた。
しかし、金正恩朝鮮労働党委員長は非核化には言及しなかった。日本を射程に入れる中・短距離の弾道ミサイルの放棄にも触れていない。小野寺五典防衛相が「これでは不十分だ」と述べたのは当然だ。
「核保有」は譲らず
北朝鮮は今月27日の南北首脳会談や6月初旬までに開かれる見通しの米朝首脳会談を前に、核開発と経済建設を同時に進める「並進」路線からの転換を表明。「経済建設に総力を集中する」新たな路線を打ち出した。
金委員長は「もはや、われわれには、いかなる核実験も中長距離ミサイル、ICBMの試射も必要がなくなり、北部の核実験場もその使命を終えた」と述べた。だが、朝鮮労働党が採択した決定書は「わが国家に対する核の脅威や核の挑発がない限り核兵器を絶対に使用せず、いかなる場合にも核兵器と核技術を移転しない」と強調。「核保有」は譲らない姿勢を示したと言えよう。
日米などは北朝鮮に「完全かつ検証可能、不可逆的な非核化」を求めているが、今回の決定では北朝鮮が真剣に非核化を検討しているように見えない。核実験場の廃棄に関しても、岩盤崩落などで既に使えない場所だとの指摘もある。
米国に届くICBMに限って発射を中止したのは、米国から妥協を引き出すための駆け引きだと考えざるを得ない。日米をはじめとする国際社会は、北朝鮮の強調する「朝鮮半島の非核化」ではなく「北朝鮮の非核化」が実現するまで北朝鮮に最大限の圧力をかけ続けなければならない。
気掛かりなのは、トランプ米大統領が今回の決定を「大きな進展だ」と高く評価していることだ。決定を歓迎しつつも、核やミサイルの廃棄につながるか注視するとした安倍晋三首相とは温度差がある。日米の連携にくさびを打ち込むことも北朝鮮の狙いの一つだろう。
その意味で、小野寺防衛相がマティス米国防長官との会談で、米朝首脳会談では中・短距離を含めた全ての弾道ミサイルの廃棄を求めることを確認したことの意義は大きい。日米の結束を示すことは、北朝鮮を牽制(けんせい)する上で重要だ。
これまで北朝鮮が何度も国際社会を欺いてきたことを忘れてはならない。2005年9月の6カ国協議共同声明では核の完全放棄を約束したが、それから約1年後の06年10月には初の核実験を強行した。
08年10月には6カ国協議の合意に従い、米国が北朝鮮のテロ支援国家指定を解除した。しかし非核化にはつながらず、09年5月には2回目の核実験が行われた。
注意深く意図分析を
北朝鮮は国際社会から譲歩を引き出すため、あえて緊張を高める「瀬戸際外交」を繰り返してきた。今回がそうではないとは断言できない。
日本は北朝鮮と首脳会談を行う米韓両国と緊密な連携を維持し、北朝鮮の意図を注意深く分析する必要がある。x