平昌五輪に来る北朝鮮「美女応援団」の謎に迫るも突っ込み不足の新潮

◆いつの間にか主役に

 2月9日から韓国で平昌冬季オリンピックが始まる。韓国はもとより日本のメディアもそうだが、五輪の事前報道は「南北統一チーム」や「美女応援団」ばかりで、肝心のスポーツの祭典、記録への期待、などアスリートへのリスペクトは後ろへ追いやられている感がある。

 スポーツ取材、それも大きな国際試合では、競技や記録とともにサイドものの話題が豊富だが、今回は脇役のそれが、いつの間にか主役の座に就き、一身に注目をかっさらっているようだ。

 特に、北朝鮮選手はわずか22人なのに“応援団”が230人も投入され、その主力である「美女応援団」に関心が集中している始末だ。「美女軍団」とも呼ばれ、韓国の男性諸氏への心理工作を見事に遂行しているのを見れば“軍団”の名がふさわしくもある。

 週刊新潮(2月1日号)が「特集北朝鮮『美女応援団』に5つの謎」の記事を載せた。それによると、この応援団に選抜されるのはほとんどが「金星学院」という芸術専門校の生徒、OGだそうだ。

 今さら北朝鮮は共産主義の国だから、皆が平等だと思う人はいない。事実は逆で、極端な階層社会であり、身分社会であって、学院に入れるのはいわば“特権階級”だ、ぐらいのことは分かっていよう。

◆“核心階層”の出身者

 「コリア国際研究所の朴斗鎮(パクトジン)所長」が同誌に語ったところによると、「出身成分という階層制度があり、核心階層、動揺階層、敵対階層に分かれています。(略)上位25%の核心階層の人たちしか、金星学院には入れない」という。つまり、出身成分が悪ければ、どんなに優秀でも美しくても将来が閉ざされているということだ。さらに「応援団」に選抜されるにも「コネ」や「ワイロ」が必要なのだとか。

 そうやって難関を乗り越えた美貌と実力を兼ね備えた美女たちは、韓国ではK-POPスターよりも騒がれることになる。2002年の釜山アジア競技大会、03年大邱ユニバーシアード、05年仁川アジア陸上競技選手権とこれまでに3回、美女応援団が韓国に来た。その都度、韓国メディアは競技よりも美女たちの取材に時間を割き、韓国男性は応援団を見に会場に移動に宿泊地に足を運んだ。今回も同じようなことが現出されるだろう。

 もっともメディアはワイドショー的な関心だけで追っ掛けをしているわけではない。この美女の中から将来の幹部夫人が生まれる可能性が大きいから、注目せざるを得ないのだ。金正恩(キムジョンウン)党委員長夫人・李雪主(リソルジュ)は05年の仁川に来ていた。

 先遣隊として乗り込んだ三池淵(サムジヨン)管弦楽団長の玄松月(ヒョンソンウォル)(45)も、付き合っている男性がいたが金正恩が略奪したとか、ポルノ映像制作に関わって公開処刑されたとか、消息が流れてきたが、今回、先遣隊で一番の実力者然として南のカメラの前に露出した。

 さて、新潮は玄団長だけでなく、「喜び組」や「容姿トップ3」など“下衆(げす)”の関心をあおる話題を並べたが、意外にも彼女たちは身持ちが良く、音楽の実力もあり、単なる美貌のお飾りではないと紹介している。

◆在日2世の“踊り子”

 しかし、新潮はそれでいいのか。もう少し掘り下げる部分がありはしないか。金正恩が“楽団員”や“踊り子”に抱いている特別な感情の背景をもっと書き込むべきではなかっただろうか。

 つまり正哲(ジョンチョル)、正恩の母・高英姫(コヨンヒ)についてである。高英姫は大阪生まれの在日2世で、北朝鮮に帰国し万寿台芸術団に入り、踊り子として活躍中に既に妻のあった金正日(キムジョンイル)総書記の目に留まり、愛人となって、この2人を産んだ。

 北朝鮮において、在日朝鮮人であることは出身成分が良くなく、多くは動揺階層に組み入れられている。その踊り子を母に持つ正恩は完全無欠の「白頭の血統」ではない。正恩はそれがコンプレクッスになっているはずだ。白頭山とは北では「革命の聖地」であり、正日もそこで生まれたことになっている。

 美女軍団を対南工作に使い、「統一チーム」で文在寅(ムンジェイン)大統領をいいように振り回している金正恩だが、彼の出身成分にまで及ぶ“踊り子”というキーワードをもっと突っ込んでみるべきだった。(敬称略)

(岩崎 哲)