北朝鮮対処で重要性増す韓国

茅原 郁生拓殖大学名誉教授 茅原 郁生

米中間で股裂き状態に
腰据え毅然とした対応を期待

 文在寅韓国大統領が13日に初訪中し、習近平中国国家主席との首脳会談が行われると報じられている。中国はこのところ韓国への団体旅行を9カ月ぶりに解禁するなど、高高度防衛ミサイル(THAAD)問題での韓国バッシングを弱めている。米国には中国の北朝鮮(北)への制裁圧力が不十分と映り、中国の金融機関の対北取引も制裁対象になる趨勢(すうせい)にあって、中韓関係の改善は米韓連携の絆に対抗する措置の一つと見ることができる。

 北の核・ミサイル危機に対しては、これまで国連決議に基づく制裁が進められてきたが、その程度などをめぐって米国対中露両国の対立が続いている。米国は共同演習を名目に日本海に異例の空母3隻を展開して演習を続けて北を牽制している。そのような中で中国は特使(閣僚級)を派遣するなど米側の求めに応じて対北説得に努めてはきたが、不発に終わった。それを受けてトランプ米大統領は9年ぶりに北を「テロ支援国家」に再指定した。

 これら一連の動きに対して、北は11月29日に2カ月半ぶりにミサイル発射実験を強行した。大陸間弾道弾(ICBM)と見られ、射程は米本土に届くと推定され、危機感を高めている。

 このような事態に先立つ10月にはトランプ大統領が日、韓、中国に続いてベトナムで開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会談などに参加するアジア歴訪があった。その初歴訪では対北圧力と貿易収支の改善が大きな狙いであった。

 トランプ歴訪の成果は、最初の訪問国日本では対北圧力強化など信頼に裏付けられた合意形成ができた。韓国では、文大統領が対北圧力に当面は同意したもののなお宥和(ゆうわ)政策は捨てきれず、インド太平洋戦略にも同意していない。

 中国では、一般観光客を遮断して広大な紫禁城を習近平主席夫妻がトランプ夫妻だけのために案内するという大仰な「国賓級プラスα(崔天凱駐米中国大使)」の接遇が功を奏した。加えて28兆円規模の商談漬けでトランプ訪中は、北対処や貿易赤字問題での鋭い突っ込みや要求を出すことなく実のない儀礼的首脳会談に終わった。

 トランプ大統領は歴訪成果を自賛したが、歴訪を受けた各国の成果への思惑はさまざまであった。メデイアは期待外れの米中首脳会談、批判続出の米韓首脳会談などと評価したように、必ずしも歴訪の期待は満たされたわけではない。

 実は筆者は11月9日から拓殖国際フォーラム(TIF)の一員として訪韓し、在ソウルの日韓言論人や世宗研究所などとの意見交換を重ね、戦争記念館や統一展望台などの現地視察をしてきた。筆者にとって10年ぶりのソウルは高層ビルが林立し、清潔な街並み、道行く人の明るいファッションなど落ち着いた雰囲気で、近年の北の核実験やミサイル実験などへの脅威感や危機感は感じられなかった。それは韓国・北朝鮮ともに兄弟国の認識があり、同族への攻撃はないとの奇妙な深層心理があるのではないか、との印象であった。

 筆者の関心事は韓国の北脅威への対応や取り組み姿勢を見ることにあった。以下、トランプ歴訪に絡めて韓国について関心事に沿って見聞した感想をまとめておきたい。

 まず米韓首脳会談で米韓同盟は強化されたのか、には複雑な感慨がある。半島有事で最大の被害を受ける韓国は米韓同盟への依存を強めざるを得ないが、文大統領の政治信条と対応は冒頭に見た通りである。のみならず日米韓3国の連携強化の必要性が高まる中で、日韓間の歴史問題克服が米国から期待されながら、トランプ歓迎宴には元慰安婦を招き、独島(竹島)エビ料理を出していた。このような文政権の対応に韓国識者からは恥じる声もあり、保守的な言論人からは米韓同盟の崩壊の危機の声さえも聞かされた。

 次に「3不約束(米軍によるTHAAD配備の強化に反対、米主導のミサイル防衛網構築には参加しない、日米韓軍事連携にも参加しない)」の真偽で、トランプ訪韓に先立って文大統領は習主席との電話首脳会談で「3不」を約束したと中国側から公表されていた。「3不」は現代の北東アジアの安全保障環境に大きな影響を及ぼす問題であるが、韓国内では約束はないと否定的な見方が聞かされた。まさに韓国が米中2大国間で股裂き状態にある実例であるが、その分だけ13日からの中韓首脳会談の推移が注目される。揺れ動く韓国の振り子が再び中国側に引き寄せられることのないよう祈るばかりである。

 第3に、先の選挙では文在寅大統領が当選し、就任後半年を経ても驚異的70%の支持を集めている由だが、左派政権として大衆受けする最低賃金や正規雇用化などの政策やポピュリズム的運動が文政権を支えているとの識者の見方があった。また前政権への反動で韓国政治は左派がファッション化し、大衆迎合的な政治・社会の風潮にあって、もはや言論の自由はないとの保守系言論人の述懐が印象的であった。

 見てきたように北に対する国連の制裁圧力が順調に進展しない中で、日米韓3国の連携はますます重要になってくる。これは従来のアジアの安定が米国をハブとし、日韓比など各国とのスポーク型の2国間同盟で維持されてきたが、地域を跨(また)ぐ多国間同盟に移行する試金石でもある。韓国が地政学的な自国の役割と国際的な責任を自覚して、米中間をうまく泳ぐのでなく、腰を据えた毅然(きぜん)とした対応が期待されている。

(かやはら・いくお)